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Worlds Collide -異世界人技能実習生の桜子さんとバベルの塔-  作者: 水月一人
第五章:俺のクラスに夏休みはない
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浮遊魔法と回復魔法

 クラスメートの中で何故か一人だけ魔法が使える川路と話してみたら、彼女は有理が今までやって来たのとは違うルールで魔法を習得していたようだった。具体的には、彼女はイメージをそのまま口にしてみたところ、思い描いた通りの魔法が勝手に発動したらしいのだ。


 それを聞いて有理も試しにやってみたところ、彼もまた今までとは違う詠唱で魔法を発動することが出来た。今までは、火球を撃ちたかったら『イル(go) ファイロ(fire)』と唱える必要があったが、新ルールでは『ギラ』とか『メラ』と、炎の魔法を連想するような言葉を発すれば、それでいいらしい。しかも、術者がイメージした通りにアレンジしてくれるというおまけ付きだ。


 知っての通り『ギラ』も『メラ』も国民的RPGに登場する炎の魔法だ。これを語魔法で表現しようとするなら、どっちも『イル ファイロ』となるだろう。しかし、有理のイメージではその2つは異なっている。なんというか、ギラは範囲魔法で、メラは単体魔法なのだ。


 この違いを語魔法で表現しようとするなら、出来なくはないだろうが、相当面倒なことになるだろう。おそらく使用する(ウォート)も2語では済まなくなるのではないか。それが新ルールでは、たったの2文字で済んでしまうのだから、もしも、あのVRゲームにもこのルールが採用されたら画期的な進歩を遂げるはずだ。


 ところで、実を言えば、有理もこれと似たようなことを考えていた。


 この異変が起きる前、有理は開発チームに頼んでエスペラント語の拡張をしてもらっていたが、それによって自由度が増した反面、魔法を覚える難度も上がってしまった。有理はそれをメリッサを使って補おうとしていたわけだが、何故そうしたかと言えば、最終的には彼女に通訳をさせようと考えていたからなのだ。


 あのゲームは音声入力で魔法を使う仕組みになっているので、同じ声で同じ発音をすればやはり魔法は発動する。なので例えば、有理が『火を放て』と言った瞬間、メリッサがそれを翻訳して『イル ファイロ』と発音しても、結果は同じになるはずだ。何しろメリッサは、誰かの声を真似することが得意なのだ。


 要するに、(ウォート)を選んで術者が直接詠唱するのも、彼女に翻訳と同時に詠唱まで肩代わりして貰うのも同じことだというわけだ。有理はそれを自衛隊と協力しながら、ひと夏かけてメリッサに学習させていこうと考えていたわけだが……


 今起きてる現象はそれと似ていた。


 これはもしかして、今もメリッサが有理たちをサポートしてくれてるからなのだろうか?


 しかし、それは正直ありえないだろう。


 というのも、そもそも今の研究所のサーバーでは、単純にスペック不足で、クラス全員を仮想世界に繋ぐなんてことは出来ないはずなのだ。それをなんとかしようとしていたところ、アメリカの横槍を受けたせいで、セットアップはまだ完了していなかった。


 おまけに肝心のメリッサは今、欠損したデータの修復中で、しかもそのデータは宇宙港にあるから、殆ど何も出来ないはずだった。


 その何も出来ないはずのメリッサが、こんな現実と見紛うリアルな世界を構築し、あまつさえ30人のクラスメートたちをフルダイブさせ、ゲームプレイのサポートまでしてるなんて到底考えられない。


 となると、やはり研究所に来ていたというアメリカ軍が何か悪さをしたとしか考えられないが……それが何かは、さっぱり分からなかった。結局のところ、魔法絡みの理不尽な異変は、考えすぎても無駄なのだ。今まで何とかなってきたように、そのうち何とかなるはずだから、終わってから考えても遅くはないだろう。


 ともあれ、新ルール自体は歓迎だった。あのレイドボスを倒すには、クラスメートたちのレベルアップが必要で、特に魔法の習得は必須だったが、メリッサのサポートがない状況では、どうやって覚えてもらうか悩みのタネだった。辞書と首っ引きで頑張るしかないかと思っていたが、その手間が省けるのなら僥倖である。


 そんなわけで早速仕入れた情報を共有するため、探索を切り上げると有理たちは拠点のモールへ帰ることにした。駅前の商業施設でモンスター退治をしていたマナたちは、彼らが戻ってきたのに気づくと何も言わなくてもこっちに合流してきた。


「そんな簡単なことだったの?」


 ちょうど昼時だったので、休憩がてらまたフードコートで食事しながら、川路の魔法について気づいたことを話すと、マナは呆れ返っていた。


 彼女とは、あの森の国を1ヶ月以上さまよい歩いた戦友である。魔法を覚えるために、森の中を何百キロも歩き回り、面倒くさい呪文を丸暗記したことを思えば、新ルールはあまりにも簡単すぎた。


「でもこれから覚える人は楽に越したことはないでしょう。俺達も付きっきりで教えるわけには行かないんだから」

「まあ、そうなんだけど。ちょっと理不尽よね」

「それで物部、二人だけで話してないで、具体的にはどうすればいいんだ?」


 マナと話していると、注文の皿を運んできた陳が呆れながら訊いてきた。有理はそれもそうだなと頷いて、


「ああ、今までは魔法を使うためには、エスペラント語って外国語を覚える必要があったんだ。魔法の属性や効果の一つ一つに対応する単語があって、それらを組み合わせて詠唱をしなければならなかったんだけど、それが今度からはイメージするだけで良くなった」

「イメージって?」

「例えば、何か攻撃魔法を覚えたいとするだろう? そうしたら、どんな魔法を使いたいのか頭の中でイメージしながら、それを連想するような言葉を発すればいい。例えば……メラ!」


 有理がそう言って滑走路で試したのと同じことをすると、周囲からどよめきが起こった。察しの良いものはそれだけでどうすれば良いか理解したらしく、すぐに有理の真似をして炎の魔法を使うことに成功した。


「おい! 室内で火はやめろ! やめろっつーに!」


 フードコートのあちこちで炎が上がり、ここを取り仕切っている料理班が慌てている。有理は申し訳ないことをしたと苦笑いしながら、


「けど今ので大体分かっただろ? 使いたい魔法をイメージしながら、それと結びつく言葉を唱える。もしもSPが十分に溜まっていたら、SPを消費して必要な単語(ウォート)を習得して、魔法が発動するようになるみたいだ。多分、みんなも今のでステータスの魔法欄に、新しい語が刻まれてるはずだよ」


 言われて確かめた者たちがざわついている。中には、試すんじゃなかったと後悔している者もいるようだ。SPには限りがあるから慎重にと周知していると、


「魔法を覚えるために、そういったゲームの知識が必要なんですか? 私、あまりビデオゲームはしたことがありませんの」


 すると南条がやって来て、おずおずとそんな事を言いだした。どうやら彼女は今まで生きてきた中で、殆どアニメやゲームに触れてこなかったらしい。


「いや、そういう知識があればイメージがしやすいってだけで、絶対必要ってわけじゃないと思うよ。要は、はっきりとしたイメージと、単語が結びつけばいいわけだから、例えば、しっかりイメージして……『風』よ!」


 有理が集中しながら日本語で唱えると、どこからともなくそよそよと風が吹いてきた。それは語魔法のヴェントと同じ効果だったが、エスペラント語ではなく、日本語でも発動することが確認できた。新ルールならこういうことも可能というわけだ。


「具体的なイメージを持てるなら、どんな表現でもいいんだと思うよ。実際、川路さんは『巨神兵がドーン』だったじゃない」

「そういえば、そうでしたわね」

「彼女はテレビ番組だったみたいだけど、南条さんも何か思い入れがある小説なりなんなりがあれば、そこから連想していったらいいんじゃないかな」

「わ……わわわ……うわあああああーーーっ!!」


 有理がそんなアドバイスを送っているときだった。突然、周囲からどよめきが起こって、誰かの悲鳴がフロアに響いた。


 驚いて声のする方へ目を向ければ、吹き抜けの真ん中あたりを浮遊している男がいた。まるで溺れているかのように手足をバタつかせて、彼は必死に空中をクロールしている。


「助けてくれ! どうすりゃ降りれるんだよ!?」


 そんな事言われても、そもそもどうして飛んでいるのかも分からなかったので、みんな唖然と見上げているしかなかった。やがて男は吹き抜けの広場を一周して、ぐるりとまたフードコートに戻ってくると、いきなり浮力を失ったかのように、ドサッと床に落っこちた。


「あいたたたた……」


 そして腰を強かに打ち付けて苦しんでいる男の元へみんなが駆け寄ってくる。有理もその輪に加わって、大丈夫か? と男に尋ねていると、彼を取り巻く輪の中から、誰かが思いついたかのように、


「ホイミ!」「ケアル!」


 と唱えだした。多分、さっきの話の流れから、回復魔法を習得しようとしているのだろう。それを見ていた他の連中も、同じように定番の回復魔法の名前を連呼し始めたが、いくらやっても彼は回復しそうになかった。


「いたた……駄目だ、誰かドラッグストアで痛み止めでも持ってきてくれ」

「eiltbreiltbreokevkide」


 すると突然、背後から奇妙に響く音声が聞こえてきたと思ったら、彼の体が蛍光色の光に包まれた。その声に振り返ってみれば、アストリアが彼に向かって手を翳しながら、異世界語の呪文を唱えている。するとみるみる内に彼の顔色が良くなっていき、


「いた……くない。もう平気みたいだ。ありがとう! あんた凄いな」

「jorueolcoen」


 アストリアは本当に嬉しそうにニコニコ微笑んでいる。


「ねえ、回復魔法ってどうやったら出来るの? 教えて」「俺も俺も」


 そんな彼女の下へ、さっき回復魔法を習得しようとしていた者たちが殺到する。しかし彼女は困ったような表情で、相変わらず誰にも分からない異世界語で何かを喋っていた。


 そう、彼女の言葉は誰にも分からない。言葉どころか、彼女がどこの誰なのかも、なんでここにいるのかも、何も分かっていなかった。なのに、彼女はいつの間にかみんなに受け入れられて、誰にも使えない回復魔法が使えて、そう言えば最初に出会った時は空も飛んでいた気がする。


 桜子さんにそっくりだけどどこか違う……彼女は一体、何者なんだろうか?


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