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Worlds Collide -異世界人技能実習生の桜子さんとバベルの塔-  作者: 水月一人
第五章:俺のクラスに夏休みはない
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方針変更

 死んだはずの張偉が生き返ったことで、他の者たちも生き返る可能性がぐっと高くなった。それまでは仲間が殺されたことで重苦しい雰囲気が漂っていたが、みんな元気を取り戻したようだ。ここがゲームの中だと分かっていても、やはり心の何処かでは不安だったのだろう。


 一頻り喜んだ後、一行は落ち着きを取り戻すと、またすぐ救助を再開することにした。張偉という前例から、他の者達もおそらく学校内にいるだろうと当たりを付けた彼らは、その後次々と死者の石像を発見した。


 ただし、その場所はバラバラで、ある者は学校の教室に居れば、またある者は屋上に居たりと、どうやらその人にとって馴染み深い場所にスポーンする決まりがあるようだった。中には寮の自室にスポーンした者もいて発見が遅れたが、日が昇るまでにはなんとか全員を復活させることに成功した。


 そうして一晩中の捜索を終えてモールに帰還した一行は、クタクタになってすぐ眠りについたが、昼までには目が覚めて、誰も何も言っていなかったのにフードコートに集まってきた。色々あってみんな興奮していたのだろう。死んだと思われた者たちが生き返ったのは良かったが、これからのことを話し合わねばならなかった。


 そんなわけで、学校を出る前にも一度やったが、二回目のミーティングを行うことになった。今回も司会進行は生徒会長のマナと有理が務めた。これは別に年功序列とか役職で選ばれたわけじゃなく、二人がゲーム世界に閉じ込められるのはこれが二度目だからだ。


「もうみんな信じてくれてると思うんだけど、どうやら俺達は全員、ゲームの世界に取り込まれてしまったらしい。一部の人達は既に知ってると思うが、これは俺の研究室のAIが起こしている不思議な現象で、何故こんなことが起きるのかは、これから自衛隊と一緒に究明するつもりだったのでまだ分からないんだけど、幸いと言っていいか、これと似たような経験を俺と生徒会長さんはくぐり抜けたことがある。なので、今回も現実の世界に帰ることは可能だと思ってる」

「なんで俺たちだけがこんな目に遭ってるんだ? 他のクラスじゃなく」

「それは分からない。AIの開発者である俺とたまたま同じクラスだったからって可能性はある。もしそうだったらすまない。ただ、本当ならゲーム世界に入るには色々と準備が必要で、何もしてないのにいきなり閉じ込められるなんてことは考えられないんだよ。そうすると、こうなる直前に米軍が学校に来ていたらしいから、奴らが研究室で何かしたんじゃないかと思ってる……もう隠し事するつもりは無いから言ってしまうが、実を言うと、ここ数週間ばかり、奴らに命を狙われてたんだ。異変が起こる2日前にも、研究室はハッキングを受けていた」


 有理のカミングアウトにクラス中がざわついた。まさか自分のクラスメートが、米軍とドンパチやってるなんて想像もつかなかったのだろう。有理はみんなが落ち着くのを待ってから、


「それで、米軍が何をやらかしたのかを確かめるためにも、あの研究所を調べる必要があるんだけど……昨日見た通り、今あそこはあのドラゴンが根城にしていて近づけそうもない。だからみんなにはこいつを倒すために協力して欲しいんだけど、多分、今のままじゃあれは倒せないだろう」

「あの鳥は夜は寝てるんだろ。夜にこっそり忍び込むんじゃ駄目なのか?」

「それは俺も考えた。でも、失敗した時のリスクを考えると、あまりやりたくないんだ。というのも、奴に全く気づかれずに研究所を調べるのは難しい。そして、もしも逃げ場の無い研究所内にブレスでも吐かれたら、俺が焼け死ぬだけならともかく、備品やら何やらが破壊される可能性がある。もし、サーバーが壊れてしまったら、もうお手上げだ」


 みんな理解は出来るが難しいと言った感じでざわついている。そのうち、また別の一人が手を挙げて、


「あのさ、もしかしてって思ってたんだけど……あれってニューヨークに現われたのと同じドラゴンだよな?」

「ああ、そうだ。ここがゲームの世界だということを思い出して欲しい。実は、あれにはモデルがあって、とあるゲームのレイドボスとして実装される予定だったんだ。どうやったかは知らないが、アメリカ人たちはそれを現実世界に呼び出してしまったらしいんだ」


 有理の言葉にまた周囲がざわついた。普通ならこんな荒唐無稽な話を信じる者などいないだろうが、他ならぬ自分たちが今現在巻き込まれている現実を考えると、信じざるを得ないといったところだろうか。同じクラスメートが続けて言った。


「ニュースでは、あのドラゴンは空軍が出てきてようやく鎮圧出来たんだろ。そんな化け物を相手に、俺たちが勝てると思うのか?」

「現実だったら不可能だろうね。でも、ここがゲームの中なら可能性はあるんじゃないかと思ってる。というのも、あれがいくら強いと言っても、ゲームのボスとして実装されたからには、倒せるように調整はされてると思うんだ。少なくとも、最大HPが存在するのは間違いない。米軍が撃退した事実から、一応物理攻撃も効くらしい。それから、逃げる時に川路さんがレーザービームをぶっ放したんだが、奴はそれを食らって怯んでたんだよ」


 頬杖をつきながら隅っこの方で会議の行方を見守っていた川路は、思わぬところで注目を浴びてキョドっていた。有理は気の毒な彼女を例に上げながら、


「川路さんだけじゃなく、このゲーム世界で俺達は自在に魔法が使えるんだよ。その方法は簡単、まず『ステータス』と唱えると本当にRPGのステータス画面が見える。そこに表記されてるレベルを上げれば、スキルポイントを取得出来るから、それを使って魔法を覚えるってシステムだ。本当にゲームみたいだろう?」


 それを聞いたクラスメートたちが、自分のステータス画面を表示してざわつき出した。昼間、既に試していたモール組が何も言わなくてもレクチャーし始め、いま始めてステータスを開いた者たちが熱心に聞いている。有理もテーブルからテーブルへ移動しながら質問に答えた。


 そのまま得意武器の話になったので、自然とまだ見つかってない者たちの適正を試す流れとなった。みんなそれぞれナイフを振ったり弓を引いたりしていたが、そんな中、一人不安そうな顔をした女生徒が近寄ってきて、


「あのさ、昨日の昼間試したら私、銃適性があるって分かって、それでモンスターを撃退してたからかな? あんたの言う通り、レベルが結構上ってるみたいなんだけど」

「あ、本当に? 良かったじゃない」

「うん、それは良かったんだけど……昨日、モールで戦ったり、夜は学校行ったりで、弾を撃ち尽くしちゃったのよ。これからどうすればいいか……」


 彼女はマガジンが空っぽになったアサルトライフルを差し出してくる。そんなもの渡されても有理にもどうしようもないので、誰か融通してくれないかと、他の銃適性者たちに聞いてみれば、みんな残弾数に不安を抱えていた。彼女と同じように撃ち尽くしてしまった者も居て、そのうち学校まで取りに行こうと考えていたそうだが、


「いや、あのドラゴンが占拠してる学校を探索するのは危険だよ。確か、ここのすぐ近くに厚木基地があったでしょう。探せば弾薬くらいは見つかると思うから、そっちに行ってみよう。泥棒みたいで気が引けるけど、まあ、緊急時だし大目に見てくれるでしょ」


 弾薬を調達に行くことを決めた有理は、まだステータスのことでざわついているクラスメートたちに向かって言った。


「ちょっと聞いて欲しい。今、彼女にも確認したんだけど、やっぱりレベルは街に徘徊してるモンスターを倒すことで上がるみたいだ。レベルが上がって、力などの数値が上がれば、それはちゃんと反映されて、俺みたいのでもそこそこ戦えるようになる。だから、機会があればこれからは積極的にモンスターを狩って欲しい。


 それから、昨日の戦闘のせいで、一部の人は残弾数が心細くなっているそうだ。なので、これから俺達は厚木基地まで行って、物資を探してこようと思ってる。もし一緒に行ってもいいって人がいれば、レベル上げのついでと思って力を貸してくれないか」


 彼の呼びかけに張偉と関、里咲とその友達が応じてくれる。それから、単純に基地が見たいという者たちが数人名乗り出てくれ、更にはそれが生徒会長の務めと言わんばかりに、当然のようにマナも参加しようとしていたが、有理はそんな彼女を止めて、


「いや、椋露地さんは何気にうちの最大戦力っぽいから、ここに残ってやって欲しいことがあるんだけど」

「なによ突然?」

「昨日、街の様子を見てて気付いたんだけど、モンスターたちはただ徘徊してるだけじゃなくて、商店を襲って食料を漁ってるみたいだった。食べ物以外は見向きもしてない感じだったけど、その食料が今の俺達にとっては貴重だろ? これまでにも、いくつもモールを見つけて、もう食料の心配はしないで済むと思ってたけど、これからはまた気にしなければならない。そこでお願いなんだけど……


 モンスターたちに奪われる前に、この近所だけでも物資を回収しておいてくれないか? 回収と言っても、ここに運び入れろってわけじゃない。俺たちが拠点にしてるこのモールを見るからに、モンスターたちは出入り口を塞いでしまえば、中まで入ってこようとはしないようだ。だから、他の店もシャッターを閉じれば安全地帯になるんじゃないかと思ってるんだけど」

「そうね。安全地帯が多いにこしたことはないわ。引き受けましょう」

「oleirvlilolyklhevijlvdlkgevllu」


 二人が会話してると、それを聞いていたアストリアが自分を指差しながら何やら訴えかけてきた。


「……手伝ってくれるの?」


 マナの言葉にコクコク頷く。どうやら彼女も手伝ってくれるらしい。それを見て、昨日、彼女に助けられた者が自分も手伝うと名乗り出て、気がつけばクラス全員が何かしらの仕事を率先して請け負ってくれることになった。こういう時は、捻くれ者の一人や二人が出そうなものだが、問題が生死に関わることだけに文句を言ってる場合じゃないとみんな分かってるのだろう。


 そうして一人ひとりやることが決まると、改めてドラゴン問題に立ち返り、みんな最終的にはあれを倒すのを目標に、レベルを上げたり、得意武器に慣れようという方針に決まった。


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