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Worlds Collide -異世界人技能実習生の桜子さんとバベルの塔-  作者: 水月一人
第五章:俺のクラスに夏休みはない
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ただし、ゲーム的に

 スピード狂と化した南条の荒っぽい運転を、ドナドナのような気持ちになって耐えていた。というか、行きはあれだけエンストを繰り返していた彼女が、帰りはラリードライバーの如くドリフトを駆使してモンスターを轢き殺しまくると誰が予測できただろうか。


 右に左に振られる体を必死になって支えること十数分、あっという間に海老名駅周辺まで戻ってきた一行は、遠くの方でクラクションが鳴り続けていることに気がついた。


 どうやら、予想通りモンスターはこっちの方にも現われたらしいが、問題は誰が何のためにあんな音を立てているのだろうか。


 モールに近づくに連れて徐々に大きくなってくる音に不安を覚えながら、タクシープールに飛び込んでいくと、そこはモンスターの巣窟になっていた。


 タクシープールのど真ん中には山のようにモンスターの集団が折り重なっていて、クラクションはその中から聞こえてくるようだった。どうやら外から帰ってきた装甲車が、ここでモンスターに捕まって、身動きが取れなくなったらしい。


 モンスター軍団は新たな獲物がやって来たことに気づくと喜々として飛びかかってきたが、例によって南条の無慈悲なドラテクによって次々と空へ帰っていった。彼女は後部座席が揉みくちゃになっているのも構わず、ドリフトしたままタクシープールを一周するとその勢いのまま公道へ飛び出し、再度引き返してきてはアタックを繰り返した。


 その無軌道な運転である程度敵の数が減ると、今度は銃声が轟いて、見ればモールのあちこちの窓から身を乗り出したクラスメートたちが、銃撃で次々と残党を狩り始めた。有理たちもモンスター軍団がそっちへ気を取られてる隙に車を飛び出すと、彼らとともに応戦を始め、気がつけばあれだけ居たモンスターの集団も、あっという間に片付いてしまった。


 そうして一時的にタクシープールは空っぽになったが、どこから湧き出してくるのか、またモンスターが次々押し寄せてくる。マナたちがそれを返り討ちにしている間に、有理は捕まっていた装甲車に駆け寄ると、後部ハッチを叩いて中の様子を窺った。


 すると安全になったことに気づいた搭乗者たちが、ドアを蹴破るような勢いで飛び出してきた。


「助けてくれ、怪我人がいる、死にそうなんだ!!」


 車の中は、まるで難民船みたいにすし詰めになっていて、一体どこに収まっていたのかと目を疑うくらい、後から後から人が転がり出てきた。中には血を流し、骨折でもしているのだろうか、苦しそうに喘いでいる者も居る。一人だけ車の中に取り残された者が居て、見れば完全に弛緩しきった表情で、意識が朦朧としているようだった。かなり重篤なようである。


「物部、こっちだ!」


 このままじゃマズイと焦っているとモールの方から陳が台車を押して駆けつけ、怪我人を強引に乗せると、ガラガラと音を立てて来た道を戻り始めた。迫りくるモンスターを撃退しながらあとに続けば、入口の自動ドアにバリケードが築かれていて、端にぽっかり穴が空いているのが見えた。陳が怪我人をそこから中に入れるのを見届けると、続けて装甲車の連中が、そして最後に有理たちが続いた。


 殿を務めた有理が中に転がり込むと、モンスターたちもそれ目掛けて殺到してきたが、待ち構えていた川路がなんか凄いビームをぶっ放して蹴散らしてしまった。光線が収まるのを待ってからバリケードの穴を塞ぎ、後からやってきたモンスターたちが中に入れろと体当りしてきたが、みんなで必死になってバリケードを抑えていたら、そのうちそれも聞こえなくなり、唐突に静けさが訪れた。


 たっぷり1分くらい沈黙したあと、みんなが息を殺して見守る中、脚立に登ってバリケードの隙間から外を覗き込めば、あれだけ騒いでいたモンスターたちはまるで何事も無かったかのように街をふらふらと徘徊していた。


 どうやら、タゲが切れたらしい。それを見てホッと溜息を吐いていると、陳がやって来て状況を説明してくれた。


「お前らが出ていってから暫くして、あのバケモンが現われてな。最初は滅茶苦茶焦ったけど、みんなたまたま得意武器を持ってたから、思ったより戦うことが出来て、どうにかモール内から撃退した後は、これ以上入ってこれないようにシャッターを閉めてバリケードを築いたんだ。そしたら、あいつらがモンスターをトレインしながら帰ってきて、あの数ではどうしようもなくて困ってたところだ」

「丁度いいタイミングだったみたいだな」

「ああ。こんだけ早い帰還ってことは、そっちも何かあったみたいだな」

「それについては後で話すつもりだけど……その前に、怪我人をどうにかしないと」

「そうだった。俺達も何人かやられてて、ドラッグストアのお陰で応急処置は出来たんだが……こいつは、もう手には負えないぞ」


 彼は台車に乗せて運んできたクラスメートを見下ろしながら苦々しそうに言った。台車の男は今も意識が朦朧としており、早く処置をしなければ死んでもおかしくないような状態だった。


 しかし、ここは病院でもなければどこかに医者がいるわけでもない。こんな重態の患者を助けられる程の医療知識を持った者などいるはずもなく、みんな絶望的な気持ちで彼のことを見守っていると、


「eiltbteiltbteovkiso!」


 突然、聞き取るのも難解な不思議な声が響いてきたと思ったら、眼の前で昏睡している男の体が謎の光に包まれた。


 ハッと顔を上げれば、いつの間にかやって来ていたアストリアが彼に手を翳して、儀式めいた口調で何やら唱えている。するとみるみる内に傷口が塞がっていき、あっという間に彼の体は回復してしまった。さっきまで苦しそうにしていた男が、今はすやすやと健やかな眠りに落ちているようだった。


 一同が驚いてる中で、彼女は他の怪我人を見つけると駆け寄って同じように呪文を唱えて回復していった。骨折した者も裂傷を負った者も、あっという間に怪我が無かったことにされて唖然としている。


 彼らはみんな、まごついていた。もちろん、感謝の気持ちもあっただろうが、それ以上にこいつは誰だ? といった疑問の方が勝ったのだろう。


「えーっと……彼女は行った先で知り合った生存者だ。なんか知らんけどモンスターと戦ってて、共闘してたら回復魔法も使えるんで大いに助かった。名前はアストリア」

「それって、異世界人の神様の名前じゃなかったっけ?」

「らしいね。言葉が通じないから、詳しいことは分からないんだけど。どうも、異世界語を喋ってるみたいなんだ」


 名前といい、回復魔法が使えたり、異常に頑丈だったりと、この世界がゲームであるなら、もしかして彼女はNPCなのかも知れないとも思うのだが、しかし、今は彼女の出自を疑っている場合でもないだろう。


「听我说 我需要帮助」


 有理たちがそんな話をしていると、いきなり横からまた別の知らない言葉で話しかけられた。見ればクラスの中国人が彼女を指差しながら、必死に何かを訴えている。何を言ってるのか分からないので困っていると、陳が通訳を買って出てくれた。それによると、


「こいつら東京に向かってる最中に、あのモンスターに遭遇したらしい。昼に河川敷で飯を食ってたらいきなり襲われて、みんな何も出来なくて逃げ惑っていたそうだが、そんな中で張偉が一人だけモンスター相手に奮闘してて、みんなを逃がしてくれたらしい」

「それで張くんはどうなったんだ?」

「それが……車が出た後ついに堪えきれなくなって、モンスターの大群にやられちまったらしい。そのとき、張偉が光になって消えていくのを見たって言ってるんだが」

「それって……?」

「ああ、さっきのモンスターと同じ感じだったらしいな」


 つまり張偉は死んだと考えて、もう間違いないだろう。ただし、それはゲーム的にだ。彼はモンスターにやられて光となって消えたが、その後どこかにリスポーンした可能性はまだ残されている。


 こうなってくると、研究棟の前で見つけたあの石像が怪しいのは歴然としていた。今すぐにでも戻って、あれをもう一度調べたいところだが、


「也许她能帮忙」


 中国人がまた何かを言っている。


「現場にはまだ取り残された連中がいて、助けを待ってるようだ。今やったみたいに、彼女なら助けられるかも知れないから、助けて欲しいってさ」

「そう……だな」


 もしも怪我人がいるなら放って置くわけにはいかないだろう。ここへ戻って来る最中、関から掛かってきた電話は助けを求めるものだった。彼がまだそこにいるなら、有理が来るのを待っているかも知れない。助ける義理なんてもちろんないが、そんなものなくても行くだけだ。


「取り敢えず、俺はこれから残った連中の救出に向かうよ。アストリア、申し訳ないけど手伝ってくれないか? 二人だけじゃ心もとないから、椋露地さんにも来て貰えると助かるんだけど……」

「頼られたんじゃ仕方ないわね」


 有理が言ってることが分かるのか、アストリアもこくこく頷いている。


「後は、そこに行くための足が必要だが……」


 彼がそう言ってキョロキョロ周囲を見回していると、突然、肩をガッチリと掴まれて……振り返れば笑顔に青筋を立てた南条が立っていた。彼女の行動は分かりやすいから、なんとなく察してはいたが、多分、張偉が殺されたと聞いて腹を立てているのだろう。


「あ、うん、ありがとう……くれぐれも安全運転でね?」


 連れて行かないとそれはそれで何をするか分からない。有理は諦めて彼女の厚意を受け入れることにした。


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ただいま拙作、『玉葱とクラリオン』第二巻、HJノベルスより発売中です。
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よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
南条さんなら「安全に」連れていってくれるよね。
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