第五十四話
家康は宗古が依頼した人物を部屋に呼び寄せるように、家来を呼んで指示をした。
「それから本筋ではないのですが、静勝軒にはどのような宝物が保管されていたのですか」
宗古は茶阿局の眼を見た。
「それは淀君にも聞かれましたよ。
金銀などの貴重品は置いてありません。
太田道灌の時代の骨とう品や今の着物・打掛や家康様がお客様から頂いたもの等を保管する倉庫代わりにしていただけです」
「太田道灌は非常に知恵が働き戦も連戦連勝だったと聞きます。
何かからくりもののような珍しいものというか骨とう品はありませんでしたか」
「太田道灌の骨とう品の中に色んな玩具があったと思います。
箱の扉を開けると後ろにあるぜんまい仕掛けの玩具の童が竹細工の棒を飛ばすというおもちゃがありました」
「それを淀君に話したときの反応はどうでしたか。」
「淀君はもっと貴重な宝物を期待されたようであまり興味を示しませんでしたが、淀君にお仕えしていた小那姫様からそれを見たいと言われました」
「茶阿局様、昨日火事が起きる前に、茶阿局様が静勝軒に何回か出入りされたということですが、用事はなんだったのでしょうか。
大野修理氏の事件には関係ないと思いますが」
茶阿局の耳が桜色に染まった。
茶阿局は家康のほうを振り向いて言った。
「昨日は二回静勝軒に行きました。一回目は小那姫様が静勝軒を案内してほしいと言われましたので案内させていただきました。
三階の太田道灌のおもちゃをじっくり見られていました。
着物や打掛には興味がなさそうでした。
三階にあった月の小面をいれた箱には小那姫様は近づいておりません。二回目は家康様のご指示で」
「私が茶阿局に指示したのだ。以前貰った道具をふたつばかり持ってきてもらった。
ひょうたんと天狗の面だ。
大野修理には関係がないが、未来でも同じようなものがあるのか」
家康はニンマリした顔で宗古を見た。
「それも玩具のようなものですか」
「まあ、そうだ。
ひょうたんに蜂を入れると、振動がする。
茶阿局の敏感な所にそっと置くのだ。振動で茶阿局の体が反り返るほど感じさせるのが私の夜の楽しみだ。
そのあとに天狗面の鼻を茶阿局の敏感な所に入れるのだ。
茶阿局を愉悦に導いた後に私がとどめを刺すと楽しみが倍増する。わかるか未来の人よ」
吉川が助け舟を出す。
「大野修理氏に関係ないことはよくわかりました。いいな、宗古」
宗古も茶阿局も見事な桜色の顔に変化した。
好色でないと新しい王にはなることができないのか。
家来が声をかけた。
「算砂様が到着しました」
算砂が家康の前に座ると早速宗古が話しかけた。
「昨日静勝軒に言った理由は、珍しい囲碁盤を見るためではなく、忍びの月から連絡があったからですね。
家康様の前では嘘はご法度です」
算砂が崩れた。そのあと算砂は家康に土下座をした。
「誠に申し訳ございません。肥前名護屋城でも浜松城でも懲りたと思ったのですが、江戸城の私の部屋に吹き矢の手紙が舞い込みました。
『愛しい算砂様、静勝軒の二階で、濃厚な逢引をしたくてしかたがありません。二階の入り口の反対側の扉を開けて待っていてください。』
と書いてあったので、お城将棋が終わった後、静勝軒の二階で手紙の通りにしたのだが、結局忍びの月は現れなかった。
結局時間が合わないのかと思い、二階の扉は開いたままで出直そうとして一旦西の丸に戻りました。
そのあと火事だと聞いてびっくりしたのです」
「忍びの月は私や宗桂殿の後継ぎを狙う曲者。また大野修理を殺したかもしれない忍び。
今後連絡があったらすぐに私に連絡をしてくれ。そうでないと同じ一味だと判断する」
「誠に申し訳ございません」
宗古が畳みかけた。
「江戸湾で、忍びの月が乗っていた関船を撃破したけれど、まさか、安宅船に、忍びの月を助けてはいないですよね」
「申し訳ない。あの時に私は安宅船の反対側のへさきにいた。
誰かが水面にいたので、縄を放って助けた女がいる。
忍びの月のような体つきなのであわてて縄を引っ張り甲板に挙げたが、助けた女は甲板に上がってすぐに居なくなった」
それで忍びの月が江戸城に出没しているのか。
算砂のおっさんは一生治らないな。口では言っているがまた忍びの月が現れたら裏切りそうだ。
「わかりました。
算砂様 戻って頂いてかまいません。
家康様、次の方を呼んでください」




