第三十五話 月の小面
翌日の夜になり、約束通り吉川は小那姫の部屋に入るため、控え室にやってきた。
今日は大きな満月が空に浮かんでいる。
控室にいる女中に、白粉を顔に塗りたくられて色柄の小袖を羽織らされた。
「小那姫様、さつき様をお連れしました」
女中に連れられて女装した吉川は小那姫の部屋に入って行った。
「待っていた。こちらへ」
吉川は白塗り女装のまま小那姫の横に座らされた。
すでにその横には寝具が置かれてある。
「私の女中になってくれるか」
いきなり手を握られて、小那姫から見つめられた。
小那姫は豪華な金と銀と紫の豪華な打掛を纏っている。
肥前名護屋城で淀君が着ていた物だ。
小那姫の長いまつげに切れ長の眼が潤っている。
欲情した眼に見える。
まずいな。話題を変えないと。
「義父の宗桂と相談しましたが、月の小面は徳川家康様の家来の勝吉様が持っていたはずと言われました。
小那姫様が月の小面を持っているはずはないから考えても仕方が無いと言っておりました」
小那姫の目に怒りの光が見えた。
「本当に持っている。私がどこにあるか知っている。
これを見よ。
嘘をついているのは宗桂殿のほう」
小那姫はそう言って、将棋盤をひっくり返し、くちなしの実に似た四つの足を右に回した。
木の軋む音がした。
音がすると、将棋盤の裏が開いた。
「ほら、これをよく見よ。これが月の小面」
月の小面が現れた。
「これこそが本物の月の小面」
小那姫は手に持った。
「私には無用の長物。
必要ならあとで宗桂殿に渡せ」
「宗桂殿もこれで納得するであろう。
それにしてもさつき殿は引き締まった筋肉をしておる。
胸も小ぶりで申し分ない。
さあ。私の女中だから、何でも私の言うとおりにしてもらう」
小那姫が迫ってきた。
小那姫は吉川の手を取って、小那姫の胸元に手を誘導する。
「外は冷えているが、私の体は熱い」
吉川の手に小那姫の熱と鼓動が伝わってくる。
これが大人の女の体なのか。
まずいな。宗古は何をしている。
吉川の心は宗古に向いているが、体が反応し始めている。
「部屋も暑い、体も火照っている。
淀君から頂いた打掛も邪魔。
さつき殿はそこに仰向けに寝ていればいい」
吉川が呆然としていると、小那姫は打掛の帯で吉川の左手と左足首、右手と右足首を結んだ。
これは動けない。まずい。
仰向けに寝て手足を縛られている吉川を見ると、打掛の帯を取り打掛を下にずらせた半裸の小那姫が吉川に覆いかぶさってきた。
「さあ、私が楽しませてあげる」
小那姫の唇が吉川にもう少しで届きそうだ。
カタッ。
部屋の外で音がした。




