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第三話

翌日、伏見稲荷大社で厳かな元服式と結婚式が終わった。

男装の羽織袴で凛々しい美少女が宗古と言う名前であちらこちらに呼ばれている。


結婚式が終わって控え室には二人だけだ。

「はあっ、終わった。さらしを巻いている胸がきついよ。まだまだ成長中なのに」

「凛々しいイケメンに見えるよ。それよりこっちが問題だ」

白塗りでメイクされ鬘と白無垢をコーディネートされたさつきと言う名前になる吉川がぼやいた。

「馬子にも衣装よ。でも男子言葉難しい。二人の時は令和のときの話し方でいいわね」

男に扮した宗古と呼ばれた美少女が返した。


「戦国時代に生まれ変わる前の記憶を覚えているか」

「能楽堂で殺人事件があって、そのあと夜に京都府警の事情聴取で終わってトイレに行って考え事していたらそのままトイレで眠っていたの。気が付いて通路に出たら誰もいなくて仮眠室というプレートがあったのでここで朝まで寝ようと思って入ったの。そのままベッドで明晰夢を見ていたら、転生する直前に誰かに抱きついたような気がして、目を覚ましたら刑事が横にいたっていう感じ。

あなたより少し前に起きたけど、そうこって呼ばれて最初違和感がなくて、部屋を出たらおっさんが居たの。

でも顔を見てわかったわ、

これは後に大橋宗桂として将棋の一世名人になる人だって。そして私が想子ではなく大橋宗古、後で将棋の二世名人になる人だって」

「君は、あのとき仮眠室にいたのか!

戦国時代に生まれ変わったからもう令和に戻れないのかもしれない。この時代に持ってこられたのはスマホとポケットの風邪薬だけだ。スマホはもう使えないし」

宗古がスマホを取り出した。

「そういえば宗桂のおっさんとあなたが行商で不在の時かしら。

大晦日の昼に伏見稲荷大社に来て千本鳥居を通っていた時に大きな雷鳴がしたかと思うと近くに落雷したの」

「この時代ではスマホは通じないだろ。無用の長物だね」

「そうしたらスマホに電波が届いたの。スマホのウェブサイトが見られたの。

それから奇妙な音がして、願掛け石だとか狐の行列だとか話し声も聞こえたの。

叫んでみたけどだめだった。スマホの電話も通じなかったの」


宗古、宗古、と呼ぶ声がした。

おっさんだ。

「立派な式であった。京都伏見大社の神様に感謝じゃ。立派な新郎新婦ぶりにも感謝じゃ。さあ家に戻ろう」


祝宴が終わり二人は寝室に居た。綿布団と綺麗な掛け布団風の着物や長襦袢が置いてあった。


「初夜ね。さっきおっさん、いえ宗桂お父さんからこれ渡されたわ。黄素妙論って、戦国時代の性の指南書だわ。このとおりやればいいのね」

さつきという名前になった吉川は慌てた。

「それよりスマホの話の続きが気になるよ。事件のニュースは無かった?」

「多分スマホは、千本鳥居の近くに大きな電気エネルギーが発生したら令和の世界と繋がるのよ。天正の時代に伏見大社と繋がっている世界はどこだと思う?」

「王子稲荷神社だよ。前に近所にいたからわかるよ。

大晦日の夜、関東一円から狐が大きな木の下に集まり装束を整えて、王子稲荷神社に詣でたという伝説があるし江戸時代の浮世絵にも載っているよ。

令和の時代で言うと東京都北区のあたりだよ。まあ狐というよりも狐の形をした神の使いだが」

「京都の伏見稲荷大社と東京の王子稲荷神社が何かで繋がっているんだわ。お稲荷さんパワーかも」

吉川は「事件のニュースがスマホに載っていた?」

「あったわ。読み上げるわね。

『十二月五日午後四時ごろ中京区の京都能楽堂会館で女性が胸を刺され死亡した。

被害女性は加納月さん32歳。現場は将棋の真女流名人戦が対局されていた所で、加納さんは電動車椅子に乗せられ雪と花の能面を被ったまま胸を刺されていた。

京都府警によると、加納さんの自宅が荒らされており殺人事件と関連を調べている』と書いているわ」

さつきという許嫁になった刑事の吉川は頷いた。

「それから事件の続報記事がふたつあるわ」

「記事を読んでくれ」

「加納さんの自宅のパソコンから、『江戸城大火で失われた月の能面は神の使いが導く。伏見と王子を結ぶ真ん中に月が現れる』という古文書のような画像が見つかった。

雪・月・花の能面は豊臣秀吉が、雪と花を当時の能楽師に、月を徳川家康に送られたもの。雪の面は京都の金剛流宗家、花の面は三井記念美術館が所蔵している。

月の面は江戸城大火の際に失われたとされている。若い女性の能面なので小面と呼ばれる。京都府警では内容や出所を慎重に調べている」

「わかった。もう一つの記事はどうだい」

「京都府警の二階で二人が倒れているのを刑事が発見した。将棋女流棋士の大橋想子さんと府警の刑事の吉川早月さん。二人は加納さんが刺されたときに現場に居合わせている。

なお二人は市内の病院に運ばれているが意識を取り戻していない。府警は慎重に加納さんとの事件の関係を調べている」

「仮死状態だから転生でいいのか。それとも転移なのかタイムリープなのかな。再び令和に戻れないのか」

さつきという名前になった吉川は言った。

「そうね。明晰夢で転生して生まれ変わったということ。

この世界で月の小面を手に入れて、伏見稲荷大社と王子稲荷神社に雷プラス何かのパワーが宿れば再転生できるかもね。

将棋の二世名人なら私はここでもいいけれど」

「そうか。月の小面か。よし捜査の目標が定まった」

「私の体は天正の時代の宗古の体、あなたも天正の時代の宗古の伴侶の体なの。歴史では宗古には二人子供を産んでいるわけよ。

歴史は変えてはいけないわ」

さつきという名前になった吉川は再び慌てた。

「もう少し考えないと。加納さんのメールとか」


鶏のなく声がした。朝だ。

ふと宗古を見ると綺麗な顔で寝息が聞こえてくる。胸元が少し空いて膨らみが少し見えそうだ。あわてて吉川は目を閉じた。


しばらくしておっさんの声が聞こえてくる。

「宗古、朝御飯じゃ。今日は太閤殿下と一局せねばならん。負けず嫌いの太閤殿下をどうするか頭が痛い。

今日はおまえたちも同行するのじゃ。ただ夫婦じゃなくて宗古は男でわしの跡継ぎとして紹介する。

それからさつきはわしの子として紹介するので男のままで良い。但ししゃべるな。太閤殿下におなごをつれていくのは危険じゃからな」



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