第二十話
「ほんと、疲れたぁ・・・・・・」
夜も更けた頃、バルコニーに出てふぅとため息をつく。
あれから様々な取り調べを受けて、自分の知っていることを話せる範囲内で話した後に帰ることができたがずいぶん疲れた。
アイゼアとは引き離されて、今はまだアイゼアだけ王城にいる。
侯爵の罪について、そしてライリーのことについてこれから色々調査がなされるのだろう。
しかし、まさか真犯人はずっと近くにいたライリーだったとは微塵も思っていなかった。
なんというか、人を見る目がないというか警戒心がまるでないというか。
「はぁぁ〜・・・・・・」
「何デカいため息ついてんだよ」
「わっ」
突然アイゼアの声が聞こえてきて驚いた。
横を向けばいつの間に帰ってきていたのかアイゼアがいる。
いつもこうやって、どこからともなく現れてはウィラのことを驚かせるのだ。
「もう戻ってきたの?」
「まあな。いつまでもあんなところにいられるかってんだ」
そちらはそちらで大変だった様子。
珍しく疲労の色が見える。
「続きは上層部のお偉いさん方が上手くまとめるだろうし、今回の俺の役割はここまでだな。次はもっと楽な仕事がいいけど、どうせ面倒なんだろうなぁ」
次の仕事。
そう言われて、なんとなく考えたくないと思っていたことが間近に迫ってきていたことに気づく。
「・・・・・・じゃあアイゼアは帰っちゃうんだよね」
「そりゃあな。仕事も終わったし、久々に家に帰れるぜ」
帰って欲しくない。
ずっと隣にいて欲しい。
偽物でもいいから、兄でいて欲しい。
そう言いたい気持ちを、ぐっと押さえて飲み込んだ。
「また会いに来てくれる?・・・・・・ううん、私が会いに行く。シューリアまで、探しに行く」
ただ待っているだけなんて、そんなの自分らしくない。
彼の住所も本当の名前も知らないけれど、会いたいと願うなら、自分の力で会いにかなくては。
「次に会う時は、もっと大人っぽい立派な令嬢になって、魔術も上手になってるから!」
「ははっ!そりゃあいいな、楽しみだ。そしたらお前を、リンヴァンルデまで連れてってやるよ」
わしゃわしゃと子供にするように頭を撫でられる。
リンヴァンルデはフェイへの贈り物として選んだあの絵葉書に描かれていた綺麗な場所だ。
綺麗で静かな村だと、ライリーから教えてもらった。
もし機会があれば、リンヴァンルデだけではなくて、シューリア国内をもっと色々見て回りたい。
「約束だよ。絶対会いに行くからね」
「ああ。シューリアでお前を待ってるからな」
偽物兄妹は、今日で終わり。
でも、これから先も二人の日常は続いていく。