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第九話

「そういえば、教えて貰っていてなんだけど、本業の方は大丈夫なの?」


あの夜以降も彼は暗躍しているのだろうが、詳しいことはウィラも知らない。

だから、こうして昼間から自分に付き合ってもらっているが、本当は忙しかったりするのではなかっただろうかと不安になる。


「それについては心配ねぇよ。まあ待ってろ、すぐに分かる」


「分かるって、なにが?」


そう聞き返した時、ちょうどフィオナが約束通りお茶とお菓子を持ってきてくれたので話は中断となった。

フィオナがいる以上、秘密の会話はできなくなる。

気がかりではあったが、彼の言葉の意味を知ることになるのは、本当にそれからすぐあった。



「王都、ですか?」


夕食の後、ミルドレッド夫人から書斎に呼び出されたので向かったところ、彼女から差し出されたのは一枚の封筒だった。

滑らかな手触りのそれに書かれた文言を見て、ウィラは思わず聞き返した。


「ええ。今度の舞踏会にはあなたにも参加してもらうわ。ちょうど、アイゼアも帰ってきている事だし良い機会でしょう」


そう言われてしまえば、断るすべは無い。

舞踏会への招待状。

貴族家にとって重要な社交界は、いずれ触れることになるのだろうと思ってはいたものの、いざ目の前にすると緊張感で動けなくなりそうだった。


「でも、私が行っても大丈夫なのですか・・・・・・?」


一応聞いてみるが、おそらく結果は変わらないだろう。


「あら、心配することは何もないわよ。あなたはこの家の正当な後継者ですもの、それ以上に相応しい理由があるかしら。それとも、舞踏会はお気に召さなかった?」


「い、いえいえ・・・・・・。そういうつもりじゃないんです」


予想通り、ミルドレッド夫人には一切の隙もなかった。

引きつった笑顔でごまかしつつ、失礼しますと言って早々に退散する。

ミルドレッド夫人は綺麗な人だが、美しいからこそ恐ろしいと感じるような人だ。


部屋に戻って一人になり落ち着いて考える。


アイゼアがすぐに分かると言っていたのはこの事だったのだ。

王都、そして貴族の集まる舞踏会。

潜入調査にはもってこいの機会だろう。


「そうだ、フェイに・・・・・・みんなに手紙を書かなきゃ」


このままあれこれと考えているままだと何も手につかなさそうで、ウィラは便箋とペンを取り出して手紙を書き始める。

大切な親友との文通は欠かさずおこなっていることだ。

だが、王都へ出向くとなると文通のペースも落ちてしまうだろう。

ここから王都では、少しばかり遠いのだ。


なにも、長く離れるわけではないということは分かっている。

この街を出るのはウィラにとっては初めてのことで、寂しさと好奇心が綯い交ぜになっているだけだ。


「王都には大きなお城があって、賑やかな街には人で溢れていて・・・・・・」


見聞きしたことを思い出しながら想像する。

忘れてはならないのは、ただ王都へ行くだけでなく、舞踏会にも参加しなければならないということだ。

それも、『エルディック家の娘』として。


「気が重いなぁ・・・・・・」


周囲からどう言われることやら。

突然ミルドレッド夫人が、亡き伯爵の愛人の子を迎え入れたのだ。

怪しまれて、すぐに本当はエルディック家の娘ではないということがバレてしまうかもしれない。




ああでも、それならそれでいいかもしれない。

なんて、投げやりに考えたりしてしまう。

でもそうなったとしても仕方の無いことだ。

いつまでも隠し通せるだなんてこと、自分自身ですら思っていないのだから。




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