第1話 僕の退屈な日々は終焉を迎えるのかもしれない
あの、良く言えば厳粛な、悪く言えば長ったらしい入学式から、ちょうど2週間がたった。すでに講義の履修登録も済み、桜も散った。
新しい生活に期待を抱くのは、中学生でやめた。なぜなら、そんなものは妄想で終わるからだ。
だから僕は、4月からこの目白で一人暮らしをしているが、なにも期待はしていない。
眠って、起きて、なんか食べて、学校に通って、なんか食べて、バイトに行って、なんか食べて、寝る。なんとエコなリサイクル生活、クリーンセンターの人に職務質問されちゃいそう。
ほら、そうやっているうちに、今日も終わってしまう。なんの成果も得られませんでした!と唱えて就寝する日々は、想像以上に心に応える。
だから僕は、なにかをしたい。しなければならない。面倒くさがり屋の僕を、退屈な日々から引き離してくれるなにかを。
聞くところによると、同じ高校から同じ大学に来たあいつら……寺島 清花と青葉 恵も、同じような悩みを抱えているらしい。本当はもう一人、同じ高校から同じ大学にやってきた久保 拓というヤツがいるが、彼は入学前――もっと言えば合格前から決めていたソフトボールサークルに入ってしまっている。
適度に緩くて、適度に生活を彩ってくれるサークル、な~んだ!
なぞなぞみたいなノリで考えてから、ハッと気づく。
いけない、そういう期待はしてはいけないお約束だったはずだ。そんな都合のいい正解が、見つかるわけがないじゃないか。
生活は難しく、思い通りにはいかない。その結論に達するには、僕はあまりに若すぎる。けれど、山頂の景色を忘れたふりをして、登頂し終えた山をもう一度登ろうとするほど、僕は達者じゃない。そんなこと、面倒くさいので、しません。
ほんの少しだけ、神頼みみたいな一抹の期待を膨らませようとしたら、いつの間にか朝になっていた。
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眠りに落ちた瞬間が本当に思い出せなくて困っている。どこから夢だった……?
まあしかし、授業に間に合ったのでオールオッケー、花丸あげちゃうまである。
火曜日の授業が1限だけというのも幸いした。朝っぱらから眠たい数字のことばっかり聞くのはたしかに地獄だしもはや睡眠導入ともいえるが、とはいえ乗り切った。今日は久々にバイトもオフなので、ゆっくり帰ろう。駅前のラーメン屋に一人で立ち寄るのも、ありよりのありだ。
正門を出ようとしたとき、ふと足が止まった。自分の意思で足を止めたというよりも、なにか変な力によって、否応なく止めさせられた、というべきか。
数秒さまよった焦点がようやくあった時、1番目に入ってきたのは「メンバー募集」というよくある文言だった。
なんだ、いつものやつか、と思い目を離そうとするが、なかなかに体が動かない。
なるほど……こっちが夢か?
と思ったが、そうではないとも思う。夢にしては風が生暖かいし、夢にしてはすぐ近くのカフェからのにおいの再現がうますぎる。
そして、ポスターをもう一度よく見てみる。
「部員3人の哲学サークル」「週1回集まるかどうか」「のんびりと楽しく過ごしたい方へ」……。甘いお誘いが所せましと並んでいる。ここまでつめこむとは、誘い文句の気前がいいにもほどがある。
話だけでも、聞いてみよっかな……。
べ、べつに、入るって決めたわけじゃないんだからね!
脳内のツンデレちゃんをはねのけて、ポスターに印刷されたQRコードを読み取った。