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「さあ? でも都市伝説ってそんなもんじゃない?」
「いやもっと良い感じにオチがあるもんだろ、都市伝説って。てかこれじゃあ意味が分からないし、チープすぎない?」
「そのチープさがいいんじゃない」
A太はまだ納得していないような表情でテレビ男の話にぶつぶつと文句を言っていたが、僕は無視して次の都市伝説の話を読み進めた。
大学が夏休みに入り、A太と僕は連日のようにお互いのアパートに行ってひがな一日ゲームをしたり漫画を見たり、お酒を飲んだりしてぐだぐだと過ごしていた。
期末のテストを終えてからというもの、はじめのうちは解放感に心浮かれていたが、1週間を過ぎれば特にやることがなくなった。
アルバイトでもしようかと思ったが、どうにもやる気が起きない。二人とも親からの仕送りがあるから、普通に過ごす分には困らなかった。
2年生でサークルにも入っていない僕らにとって夏休みは大半が暑いだけの退屈な日々だ。A太も僕も彼女はいないし、何も予定がない事が分かりきっていたから、「どうせ暇だろ?」といった体でお互いのアパートに入り浸っていた。そして暇を潰すだけの毎日。
そして今日はA太の家で都市伝説をまとめたサイトを読んでいた。やることがない時はA太の家でネットサーフィンをするに限る。
「そういえば」
寝っ転がって漫画を呼んでいたA太が思いついた様に言った。
「テレビ男の話で思い出したんだけど、1年くらい前に、うちの大学で行方不明になった奴の話って知ってる?」
「行方不明?」
「そう。特にテレビとかそういうニュースになったりとかは無かったんだけど、学科の先輩たちが話してたんだよね」
いきなり何の話だと疑問に思いつつも、「それで?」と話を促す。
「なんだっけな、あんまり覚えてないんだけど、テレビとか携帯とか、今のによく似た話をしてたんだけどなー……」
要領を得ないA太の言葉。僕は、「なんも覚えてないのかよ」と少し笑いながら突っ込みを入れた。
「うーん、どっかで聞いたことある内容だと思ったんだけどな、忘れたわ」
「その先輩たちもテレビ男の話を知ってたんじゃないの?」
「分からん、思い出せん」
A太を横目にちらりと時計を見やると、既に時間は19時を過ぎようとしていた。
「やべえ、腹減ったと思ったらもうこんな時間か」
僕はパソコンを切って立ち上がると分厚いカーテンをぱっと勝手に開いた。既に日が暮れて外は薄暗くなっている。
「今日どうするー?」
「牛丼食うか」
特に何かをやっているわけでも無かった僕らは、すぐに大学近くにある牛丼チェーン店へ向かった。
「暇だなー、夏休み……」
牛丼をつまらなそうに箸で弄りながら、A太がそう呟いた。
「明日なにするよ」
「んー、僕んちでゲームとか?」
「飽きた」
「じゃあネトゲとか漫画とか?」
「飽きた」
A太は心底そう思っているような口ぶりで言ったが、そんなの僕も同じだった。やる事が無さ過ぎて、これ以上変わり映えのない毎日を過ごしていると頭が退化しそうだ。
「まあ、そこらへんのは、やりつくした感あるよな……」
大学生なのにこんなに灰色で良いんだろうか、とか、大学生ってもっと輝いてる感じだと思ってたわ、とか、お互いにぶつくさと不満をつぶやきあった。それでも何も良い案がでないあたり、退屈な日常で頭がすっかり衰えてしまっているにちがいない。
空になった丼を前に、お互いが携帯をいじり始める。店内には夏の陽気な音楽が流れはじめた。
「あー忘れてた」
A太が携帯を見てすぐにそう言った。
「なにが?」
「学科の先輩にサークル紹介してもらう話、してたんだった」
「サークル?」
「なんのサークルかは聞いてないけど、暇だったら明日来る? みたいなライン来てたんだった」
てっきりA太の事だからそこらへんの交友関係なんてないものと思っていた。なんなら友達だって僕ぐらいだと思っていたが、どうやらそれは違ったらしい。むしろ自分の方こそ知り合いの先輩とか後輩がいない分、大学内での交友関係は狭いかもしれない。
少し内心焦りつつも、いたって普通に、コップに残っている水を一気に飲み干してから「なに、A太サークル入んの?」と言った。
「どうかなー……。面白そうだったら入るかも? お前も行ってみる?」
「あー、まあ、ちょうど俺ら暇だしな、行ってもいいよ。てか連れてってくださいお願いします」
自分だけこのつまらない状況で置いて行かれるなんてとんでもない。ぐだぐだな夏休みに終止符を打てるなら渡りに船というやつだろう。冗談めかして机の上に手をついて頭を下げた。
「分かった。たしか夜に集まるとか言ってたから飲み会かも? そこらへん聞いてみるわ」
「さんきゅー! 持つべきものはA太だな!」
なんだよそれ、とA太が笑いながら言った。
サークルの飲み会なんて大学に入ってから行ったことがない。部外者だから少しの緊張感はあるけど、これで明日からは少しはマシな夏休みになるかもしれない。
そう考えると、僕の心がほんの少し、店内のBGMに合わせて踊り始めたような気がした。