04.紛糾
「魔術を習いに、花家に行きたい」
王女となって一年半、シルヴィアが初めて家族にした相談――いえ、お願い。
最初に相談を受けたアルフレッドは、苦々しい顔をして「考えさせてくれ」と答えました。一日たって、二日たって、さてどうなったのだろうと思っていたら、シルヴィアは国王に呼ばれました。
「失礼しま……す」
呼び出されたのは、国王一家が家族団らんで使う広間。挨拶をして広間に入ったシルヴィアは、思わぬ光景に驚いてしまいました。
国王一家が勢ぞろいしていたのです。
(え……何か行事があったっけ?)
誰もが公務で忙しく、行事のときでもないと勢ぞろいしません。どうしよう忘れていたかも、と焦ったシルヴィアですが、そうではありませんでした。
「シルヴィアが、花家に行きたいと言っている。皆の意見が聞きたい」
アルフレッドが重々しく告げた議題は、シルヴィアが願い出たそのことについてでした。
(なんで、どうして、こんなに大事になるの?)
戸惑っているのはシルヴィアだけではありませんでした。第二王子テオ、第三王子ジル、第一王女ステラ、第二王女エオリアの四人も、アルフレッドの言葉にぽかんとしています。
「……え、それだけ?」
ステラが問い返すと、アルフレッドはじろりとステラをにらみました。
「重大なことだ」
「お兄様。もう少し経緯を話していただけませんか?」
「どうして一家勢ぞろいで検討しなければならないのか、その重要度がいまいちわかりませんわ」
双子の妹に問われて、アルフレッドは事の次第を話しました。
建国祭の夜、シルヴィアがひどい魔力酔いになっていたこと。
それを治療したのが、花家に仕えるミズハという侍女であること。
ミズハは、花家に仕える前は裏社会にいて、「魔女」と呼ばれ恐れられていたこと。
そのミズハが、シルヴィアに一度花家に来て魔術の基礎を学んだほうがよい、と伝えたこと。
シルヴィアは行ってよいかどうか、国王に相談すると答えたこと。
「ミズハがどこで魔術を身に着けたのかは不明。花家に仕えることになった経緯も不明だ」
「つまり。どこの誰とも分からぬ正体不明の魔女のところへ、シルヴィーを行かせてよいか、ということですか?」
「まあ……そうだな」
なるほど、と兄の言葉に弟王子、妹王女たちはうなずきました。
「確かに、二つ返事でOKとは言えませんが」
「でも確か、ミズハはシルヴィーの侍女頭である、トノハの従妹だよね?」
「では問題ないのでは? 花家の当主もご同席されるのですよね?」
「その当主を……信用してよいのか、という問題でもある」
「は?」
アルフレッドの苦々しい口調に、ステラは眉をひそめました。
「四大侯爵家の花家ですよ? 信用できないというのであれば、根拠はなんですか?」
「まあ、色々と、な」
「兄上、必要な情報は開示していただけませんか? それでは私たちも判断に困る」
テオに非難されましたが、アルフレッドは難しい顔をしたままです。何を隠しているのかはわかりませんが、話す気はないようです。
「あのですねえ、お兄様……」
呆れたステラが再度根拠を問いただしましたが、アルフレッドは難しい顔のまま。何度問うても同じなので、ステラは次第にヒートアップしていき、それにアルフレッドが応戦、議論は次第に二人の言い合いという感じになっていきました。
「ストーップ! ストップです、兄上、姉上!」
言い合いが怒鳴り合いになりそうな雰囲気となり、ジルが捨て身で飛び込んで言い合いをやめさせました。
「お二人とも落ち着いて!」
「私は冷静だ。ステラが勝手に盛り上がっているだけだ」
「お兄様がちゃんと話してくださらないからじゃないですか。いったい何が難しいんですか!」
こういうとき、鶴の一声で場を収めるのは国王の役割なのですが――なぜか国王と王妃は黙ったままです。
「お父様とお母様も! なにかおっしゃってくださいな!」
「うむ、まあ、そうだな」
「そう、ねえ」
ステラに言われても、言葉を濁すだけ。ステラは「ああもう!」と机を強く叩きました。
「いったい何ですの、お父様もお母様も、そしてお兄様も。私達が知らない何かがあるのですね?」
その問いにも、三人は無言でした。
ステラは「まったく」と大きく息をつき、天を仰ぎます。
「ちょっと頭冷やしてきます」
ぷりぷりと怒りながら、広間を後にしたステラ。「では私も」とエオリアも続いて出ていきます。頭に血が上った双子の姉をなだめるつもりなのでしょう。
(どうしよう?)
相談がこんなにも大事になるなんて、とシルヴィアはおろおろしました。
仲の良い家族が自分のせいでギクシャクしたらと思うと、血の気が引く思いです。花家に行くのはやめにしますと言えば丸く収まるのかと、泣きそうな気分で考えてしまいました。
「シルヴィー」
そんなシルヴィアに、ジルがそっと声をかけました。
「僕が兄上に聞いてみるから。姉上たちのところへ行ってくれないかな?」
ひょっとしたら、シルヴィアには聞かせたくないことがあるのかもしれない。
ジルにそう言われて、なるほどな、とシルヴィアは思いました。一番の当事者であるシルヴィアがいては、話せないことがあるのかも知れません。
「わかりました、行ってきます」
「姉上をよろしく。かわいい妹になだめられれば、すぐに機嫌も直るはずだから」
ジルの、慣れた感じのウィンクに笑顔を返すと。
シルヴィアは二人の姉を追って、広間を後にしました。




