04.断固抗議
「なーんか、ダメダメな先輩だったねー」
「知らない人から物をもらっちゃダメなのにね」
「僕ならすぐ警察に通報するのに。そんなことも知らないのかな」
逃げるように立ち去ったノトスのことを笑う級友たち。シルヴィアはこっそりとため息をつきます。
(いやいや。あの人、警察よりも権力持ってるから)
そう突っ込みたいところですが、言えるわけがありません。言えば、シルヴィアが「粛清」の対象になってしまうでしょう。王女相手にそんなバカなと思うでしょうが――風家はそれをやる一族なのです。うっかり口を滑らせないよう、シルヴィアも十分注意しなければなりません。
(まさか……建国祭のことをあまり話すなという警告?)
休み明け初日、短い休憩時間にわざわざ来た理由。その可能性は十分にありました。
建国祭という重要行事で、王女が命を狙われる騒ぎが起きた。その当事者があれこれ話しては、いらぬ憶測を呼ぶことになるでしょう。
(言われなくてもわかってる、ての)
王女歴一年半ですが、それぐらいはわきまえています。なんだかバカにされた気分で、おもしろくありません。
「ねえねえシルヴィーちゃん」
ローズマリーが、くいくいとシルヴィアの袖を引っ張りました。
「なに?」
「すっごくきれいな先輩だったねー」
きらきらと目を輝かせるローズマリーに、シルヴィアはため息をつきました。
ローズマリーはきれいなものが大好きな女の子です。シルヴィアのことだって、入学初日から「こんなにきれいな子見たことない!」と舞い上がって突撃してきて、級友たちにたしなめられたほどです。
ノトスのことも一目見て気に入ったようです。無理もありません、なにせノトスは、少女と見紛うばかりの美少年なのですから。
「まあ、そうね。顔だけはきれいね」
「あのネクタイの色、三年生だよね。ちょっとお話したいかも。また会えないかなぁ」
「まーたロージーの悪い癖が出た」
「確かにきれいだけどさぁ、なんかダメダメな感じだったじゃない」
「王女様とはいえ、一年生に叱られちゃってたしね」
ローズマリーの発言に、級友たちがあきれ半分でたしなめました。
「んー、でもさー」
ローズマリーは、級友たちの言葉に首をかしげます。
「なんか、ああ見えて実はデキル男、て気がしたんだよねー。ノーあるタカはツメをカクス、みたいな?」
シルヴィアはぎょっとしました。
ローズマリー、天然そうに見えて意外と鋭いのかもしれません。これは釘を刺しておかないといけないようです。シルヴィアはローズマリーに向き直り、やや厳しい口調となりました。
「ロージー、見るだけにしておきなさいね。あの人はだめよ」
「えー、なんでー?」
「何でって……ああいうのはね、根暗で陰険で、下手に近づいたらいいように利用されて、最後は捨てられておしまい、そんな冷酷無慈悲な悪人よ。ぜーったい近づいたらだめだからね」
思いつく限りのマイナスイメージを言葉にし、ローズマリーに言い聞かせるシルヴィア。
ローズマリーは不思議そうな顔になります。
「シルヴィーちゃん、必死? なんで?」
「それは……あなたが心配だからよ」
「えー、でも、シルヴィーちゃんの知り合いでしょ? 大丈夫じゃないかなぁ」
「えっ……いえ、その。知り合いってわけじゃ……」
「そうなの? 名前知ってたから、知り合いなんだーて思ったんだけど」
しまった、と言葉に詰まるシルヴィア。
腹が立って、思わず名前を呼んでいました。それを聞き逃さないなんて、やはりローズマリーは鋭いところがあるようです。
「いや、それは、その……」
「あ、わかったー! シルヴィーちゃんの好きな人なんだ!」
「はぁっ!?」
ローズマリーの言葉に、シルヴィアは思わず声を上げてしまいました。
「なんでそうなるの!」
「えー、なんか、他の女の子が近づくのが嫌だから、わざと悪口言ってるみたいだなー、て思って」
「ない! 絶対にあの人だけは、ない!」
ひどい誤解です。なにをどう考えたらその結論になるのか、シルヴィアにはさっぱりわかりません。これぞ誹謗中傷の最たるものです。ローズマリーが鋭いというのは、勘違いだったようです。
「ロージー! 人として言っていいことと悪いことがあるのよ! 今すぐ訂正して、丁重にお詫びしてちょうだい!」
シルヴィアは断固とした口調で抗議しました。
「ぜーったいにないからね! あの人と付き合うぐらいなら、一生恋人なんていらないから! わかった!?」
「あ、うん、えーと……なんかごめん」
あまりの剣幕に、ローズマリーはたじたじとなって謝りました。
まあ、なんというか、恋に恋するお年頃の乙女らしい、他愛のない会話でした。ある意味ほほえましく、みんなすぐに忘れてしまいましたから、これと言って問題になるようなことはありませんでした。
ですが。
十年後のシルヴィアがこのときのことを言われたら、どんな顔をするのでしょうか。
きっと顔を真っ赤にして、「子供の時の話でしょー!」なんて大慌てするんでしょうね。その様子を想像すると――お可愛らしいことです。




