09.六人のご令嬢
来賓である貴族の入場が始まりました。
名を呼ばれ、次々と入場してくる貴族たち。誰もが国王一家の隣にいる美しい女性、アウラの姿を見て驚きます。そこが風家の席であることに気づき、何事かがあったことを悟ります。
ですが、下手に騒ぎ立てして風家に睨まれてはかえって面倒。一呼吸して落ち着きを取り戻すと、挨拶のため国王一家の前へと進みました。
「陛下、お招きいただきありがとうございます」
「おお、よく来てくれた」
一人一人の挨拶を受け、言葉を返す国王。すべての貴族の顔と名前を覚えているのでしょう、その会話に淀みはありません。
国王、王妃、そして王太子であるアルフレッドの三者には、誰もが声をかけていきます。その他の王子、王女への挨拶は人それぞれ。何かしら関わりのある者だけが声をかけていきます。
(退屈)
そういう知り合いのいないシルヴィアにとって、この時間が最も苦痛でした。長い時間、お人形のように、にこにこ笑って突っ立っていなければならないのです。
たまに声をかけられる兄や姉たちが、この時ばかりはうらやましいと思います。途中でちょっと会話をするだけでも気がまぎれるし、来場してくるのを待つ楽しみがあります。
(私にもそのうち、そういう人ができるのかな?)
第三王女であり、上には五人の兄と姉がいるのですから、王位継承とは程遠い身。それでなくとも微妙な立場なので、招待される貴族本人と関わりができることはなさそうです。
関係ができるとしたら、同じ年ごろの息子や娘とでしょう。
建国祭に招待された貴族は、家族を一名だけ同伴することが許されています。仲良くなった子が連れられてくれば、その子から挨拶を受けることになるはずです。
その第一候補はマリーですが、マリーは騎士団入りを目指しています。無事騎士団に入れれば、建国祭当日は警備の仕事があるため、来賓としての参加はできません。
マリー以外となると、今のところ心当たりはありません。
そもそも、建国祭に同伴していいのは社交デビュー済、つまり十八歳以上が条件です。マリーですら三年後、もし同級生の誰かとなると、あと八年は待たなければなりません。
(それまでお姫様でいられるかどうか、わかんないよね)
八年後と言えば、国王は七十を超えています。王位は王太子であるアルフレッドが継いでいるはず。そのとき自分はどういう立場になっているのか、想像もつきません。
アルフレッドの、どこか冷ややかな態度を考えると不安があります。やはり王女ではないと言われて西都へ追い返される、なんてことになるかもしれません。
(まぁ、それはそれでいいけど)
王女の立場に未練はありません。ただ、なかなかにシンドイ状況にはなりそうです。せめて身の安全は保障されるよう、ある程度の味方は作っておく必要があるでしょう。
「リズバーン伯爵!」
男爵、子爵が入場を終え、伯爵位の貴族が入場し始めました。ここから、いわゆる高位貴族になります。権力も財力も一段上となるため、身につけている物が明らかに変わります。
(あと少しね)
入場してきたリズバーン伯爵は王室秘書室長ということもあり、シルヴィアも見知った顔でした。生真面目で融通の利かない「堅物」という感じの人ですが、仕事は丁寧でそつがないと評判です。
その堅物の男は、若い女性を伴っていました。娘のようです。妻ではなく息子や娘と参加というのは、別に珍しいことではありません。
しかし。
(ん?)
そのご令嬢が、こちらを見て顔をこわばらせました。
不思議に思い視線の先を見ると、異国の女神の衣装をまとうアウラが、何というかすごい笑顔を浮かべて、ご令嬢を見返していました。
(……コワ)
ご令嬢とアウラ、何か因縁があるようです。
風家当主の婚約者なんて、まっとうな貴族の娘にしてみれば疫病神みたいなもの。決して関わりたくない相手のはずです。いったい何があったのでしょうか。
しかも、同じように顔をこわばらせたご令嬢が、他にもいたのです。
ダンドナルド伯爵令嬢。
ロンズデール伯爵令嬢。
オーモンド侯爵令嬢。
クレア侯爵令嬢。
アナンデール侯爵令嬢。
全部で六人、すべて高位貴族の娘。
この六人に何か共通点があるのでしょうか。シルヴィアは首をかしげましたが、何も思いつきません。ご令嬢たちのことをよく知らないのですから当然です。
(あ、同じ学校なのかな?)
アウラとは同級生――兄のジルがそう言っていたことを思い出しました。六人のご令嬢は全員二十歳前後で、知的な顔立ちです。王立アカデミーに通っているのであれば、アウラを見知っていて当然でしょう。
でもそれだけが理由なら、あんなにこわばった顔はしないはず。軽く会釈するなり笑顔を浮かべるなり、社交的な振る舞いをするでしょうし、そういう教育を受けてきている人たちです。
(なーんかあったんだろうなー)
風家当主の婚約者と関わる、口外できない何かが。
アウラのすごい笑顔は、脅迫かそれに類する圧力なのかもしれません。今日の建国祭に参加したのも、その圧力の一環ではないでしょうか。
実にありそうなことです。
(かかわらない方が身のためね)
うん、忘れよう、と決めたその時――ふと気づいてしまいました。
この六人、アウラと雰囲気が似ていないでしょうか。
いずれも金髪で、かわいらしい雰囲気の美人です。背格好もほぼ同じ。同じ服を着て並んでいるところを遠目に見たら、誰がアウラかすぐにはわからないでしょう。
それが理由だとしたら――きっと、ろくなことではないだろうなと、シルヴィアはご令嬢たちに同情してしまいました。




