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08.行方不明

 建国祭に参加する貴族の入場が始まりました。

 慣例で、大広間に入るのは爵位が下位の貴族からとなっています。ゆえに、最初に呼ばれるのは男爵位の者なのですが。


「風家当主代理、アウラ=ヴィアー様!」


 案内係の者が高らかに告げた入場者の名に、一同は驚きました。高位の、それも四大侯爵家が最初に入ってくるなど、前代未聞です。

 開かれた扉から、扇子を手にアウラが入場して来ました。王家一同のいぶかる視線など意にも介していない、落ち着いた表情と歩みで国王の前へとやってきます。


「風家当主代理、アウラ=ヴィアーでございます」

「うむ」


 国王は重々しくうなずくと、女神を思わせる美女に鋭い目を向けました。


「どういうことか?」

「緊急事態と判断いたしました」


 国王の鋭い目にひるむことなく、アウラは落ち着いた声で報告します。


「すでに、王宮内に賊が入り込んでいるようです」

「バカな!」


 国王の背後に控えていた、近衛隊長が声を上げました。まもなく五十歳の、経験豊かな軍人です。風家当主の代理とはいえ、年若い女性に失態を指摘されたように感じたのでしょう、声に怒りが混じっています。


「警備に抜かりはない! 異常も報告されていないぞ!」

「お声が大きいですよ。このような時こそ冷静に」


 アウラにたしなめられ、近衛隊長が赤面して口を閉ざしました。


「我々が気づいたのも、ついさきほどです。相手はかなりの手練れか、かなり前から王宮に入り込んでいたと思われます」

「何があった?」

「シルヴィア殿下の侍女頭が、行方不明です」


 アウラはシルヴィアに視線を向けました。


「そうでございますよね?」

「え、あの……王宮の警備主任に呼ばれたと聞いてるけど」

「いえ、呼んでおりませんが」


 近衛隊長が答えました。

 王宮の警備主任、本日は近衛隊長その人です。


「そのようなこと、どなたから?」

「マリーからだけど……」

「マリー様」


 静かな声で、アウラがマリーに問います。


「トノハ殿に直接言付けられましたか?」

「い、いえ、別の方から……代わりにお茶を運んで欲しいと言われたときに……」

「なるほど」


 マリーの返事に、アウラは納得したようにうなずきました。


「弱点を的確に突かれましたね」


 誰もが「しまった」と思いました。

 気丈にふるまってはいるものの、内心は不安でいっぱいなのではないか。

 そんなシルヴィアの心情に配慮し、建国祭の間、信頼している誰かを側に置き安心させようという配慮からの人選でしたが――マリーはまだ何の訓練も受けていない、十五歳の女の子です。いくら騎士に憧れ鍛錬はしているといっても、相手にとっては与し易かったでしょう。


「トノハ殿は、侍女とはいえ護衛の訓練も受けた方。そのような方が側を離れたことを、おかしいと思い確認すべきでしたね」

「申し訳……ございません」


 アウラの冷静な指摘に、震える声で謝るマリー。シルヴィアの警護役としてはりきっていただけに、ショックは大きいでしょう。


「マリー……」


 青ざめているマリーを励まそうと思ったシルヴィアですが、何と声をかけていいかわかりません。

 すると。


「とはいえ」


 アウラが打って変わって明るい声になり、ぽん、と手を打ちました。


「トノハ殿が遅れを取る相手なんて滅多におりませんし。我々も油断しておりました。マリー様だけを責めることはできませんね」

「そうだな」


 国王もうなずきました。


「マリー=シャノン伯爵令嬢」

「は、はいっ!」


 国王に呼ばれ、マリーが慌てて背筋を伸ばしました。


「落ち込んでいる暇はないぞ。余が命じた警護役だ、最後まで務めを果たせ」

「は……はいっ、がんばります!」


 マリーは潤んだ瞳で、習ったばかりの騎士式の礼を返しました。

 その初々しくも力強い様子に、皆がうなずきます。今は未熟ですが、鍛えればきっと立派な騎士になるでしょう。


「最後までよろしくね、マリー」

「……はい、殿下」


 シルヴィアが笑顔で手を握ると、マリーもぎゅっと握り返してくれました。ポロリとこぼれた涙を慌ててぬぐい、笑顔を返してくれます。

 私の騎士様、なんて言葉が脳裏に浮かび、シルヴィアはちょっと照れ臭くなりました。王子様と呼ばれることは嫌がるマリーですが、騎士様なら喜ぶかな、なんて考えてしまいます。


「トノハ殿の行方は風家で追っております。まもなく見つかるでしょう」

「わかった」

「陛下、一度席を外します」


 近衛隊長は国王に囁くと、大広間を後にしました。警備状況の確認と、指示を出すためでしょう。


「では、私はこちらに」


 近衛隊長が大広間を出て行くのを見届け、アウラは定められた席に着きました。

 他の貴族と違い、四大侯爵家の席は国王一家の両隣に設けられています。国王一家の向かって右手に月家と花家が、左手に風家と鳥家が並びます。

 入場すれば、否が応でも目に入る位置です。アウラが最初に入ってきたのは、そこから入場してくる貴族たちに目を光らせ、牽制するためでした。


「さて皆の者。今一度気を引き締めるように」


 国王の言葉に、全員が居ずまいを正しました。


「建国祭は無事終わらせる。王国も王家も、くだらぬ犯罪予告などでは小揺るぎもせぬと見せつけよ」

「はっ」

「時間をとったな。次の者を呼んでくれ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 『建国祭は無事終わらせる』『犯罪者も捕まえる』「両方」やらなくっちゃあならないってのが「国王」のつらいところだな( ˘ω˘ )
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