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02 侯爵・鳥家

 まっすぐに見つめる少年から、コレーは視線をそらしました。


 「ご家族の方は……さぞかし反対されておいででしょう」

 「ええ、それはもう」


 少年はコレーの言葉にうなずきました。


 「なにせベンヌ殿は、侯爵・鳥家の次男。その上、王国科学院が誇る天才工学者ですからね」


 この王国には、花鳥風月の名を冠す四大侯爵家があります。

 いずれも、建国にあたって多大な貢献をした英雄たちの末裔。それだけでなく、王国の歴史において王家を盛り上げ民を守ってきた、誇りある高貴な家系です。


 花家。

 文化・芸術の担い手にして、教育行政を管轄する、王国百年の計を支える一族。


 鳥家。

 科学・技術の担い手にして、経済全般を管轄する、王国の屋台骨を支える一族。


 風家。

 情報の担い手にして、謀略のすべてを取り仕切る、王国の影の一族。


 月家。

 王家より武を預かり、軍事のすべてを取り仕切る、王国の剣にして盾である一族。


 侯爵の爵位を授かった家は他にもありますが、この四家は別格です。時には暗愚な王を弑することもあったと言われているほど、強大な一族なのです。


 「そのような一族ですからね。どこの馬の骨とも知れぬ娘などと、それはもう……ああ、これは失礼」


 顔を曇らせたコレーを見て、少年は言葉を切ります。


 「申し訳ありません、コレー様。あなたを傷つけるつもりは毛頭ございません」

 「いえ……当然の反応かと」

 「いいえ、コレー様。私の不用意な発言が、あなたを傷つけてしまいました。心より謝罪を」


 少年は椅子を降り、膝をついて深々と一礼します。


 「いけません。どうか頭をお上げください」


 コレーは慌てて少年の前にしゃがみ、頭を上げさせました。


 「私が、平民の生まれであることは事実です。そんな女が鳥家のご次男と懇意にしているなど、ましてや男女の仲であるなど……忌避されて当然です」

 「そう蔑まれませぬよう」


 コレーの手を握り返し、少年は美しく笑います。


 「人の出自など、関係ありません。それが真実の想いであり、覚悟あるものであることが重要なのです」

 「覚悟、でございますか」

 「はい……おっと、まずは座りましょうか」


 床にひざまずき、手を取り合っている二人を、店主や他の客が奇妙な目で見ていました。

 二人は椅子に座り直すと、冷めたカフェ・オレでのどを潤します。


 「コレー様。よろしければ、なれそめを聞かせていただけませんか?」

 「え?」

 「あの、機械いじりにしか興味のなかったベンヌ殿が、一人の女性に興味を持ったのです。家族一同は、ベンヌ殿が女にたぶらかされた、などと申しておりますが」


 少年は置いたカップを軽く指ではじきました。

 キン、と美しく音が響きます。


 「さて、本当にそうなのか。今少し、言葉を交わし、見極めたいと思います」


 笑顔を浮かべ、まっすぐに見つめる少年を、コレーもまた真っすぐに見返しました。


 「なぜ?」

 「もちろん、ベンヌ殿を応援したいからです」


 地位も身分も関係なく、心から愛する女性に出会えた。

 それは祝うべきことであり、応援すべきことだと、少年は答えます。


 「応援、ですか?」

 「はい。ご迷惑ですか?」

 「いえ、お心遣いはありがたく思います」


 ですが、とコレーは、首をかしげて少年を見つめます。


 「一つ、お伺いしてもよろしいですか?」

 「なんなりと」

 「なぜ、あなたはベンヌ様をお名前で呼ばれるのですか?」

 「ああ。実に簡単なことです」


 少年はため息交じりに答えます。


 「兄と呼べる立場ではないからです」

 「立場?」

 「当主が戯れに手を付けた、どこの馬の骨とも知れぬ娘の子。そのような子が、兄と呼ぶことを許されることはありませんよね?」


 コレーは目を見張り、黙ってうなずきました。


 「ベンヌ殿は、お立場を超えて私をかわいがってくださいました。その恩に少しでも報いられれば、そう思っております」

 「叱られは、しないのですか?」

 「叱られる以前に、無視されるのが落ちでしょう。ですがベンヌ殿とコレー様に、お味方がいることを示せはします」


 世界のすべてが敵ではない。

 それを事実として示せるだけでも、お二人の一助になれるのではないか。


 少年はまっすぐな瞳で笑顔を浮かべました。

 その真っすぐな瞳と笑顔に、コレーはしばらく考え込み、それからかすかにほほ笑みました。


 「ありがとう。では、お話いたしますね」


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