01.殺害予告
建国祭。
それは、王国で最も重要な行事です。起源は秋の収穫を祝ってのお祭りだと言われていますが、今では王国の誕生を祝うと同時に、国と民の益々の繁栄と平和を祈る重要な国家行事となっています。
主催者は、国王陛下その人。
よって、その家族である王妃や王子、王女様方は参加必須です。
国王や王子様方は威厳のあるお姿で、王妃や王女様方は美しく華やかなお姿で、民の前にそろって姿を見せる。それによって、この国が安泰であり、ますます豊かになっていくことを見た目で示す、とても重要な役目を担っております。
そんなわけで、国王一家の末娘である第三王女シルヴィアも、未明から叩き起こされて飾りたてられることとなりました。
かわいらしいデザインの青いドレスに身を包み。
美しい銀髪を編み込み、ティアラを模した髪飾りで留め。
まだ十歳ですから、お化粧はごく薄く、装飾品も最低限。しかしそれを補ってあまりある、生まれ持っての美しさ。
誰もが見惚れてしまう、まさに「姫君」と呼ぶにふさわしい姿となられたのですが。
その整った顔は、はっきりとふてくされておりました。
「まったく」
シルヴィアがふてくされている原因は、王宮に届けられた一通の手紙でした。
『第三王女を騙るシルヴィアなる者へ告ぐ。
即刻王宮から退去せよ。
さもなくば、建国祭で我らが裁きを受けることになるであろう』
そんな手紙が届いたのは、お祭りの一週間前。
その日、王宮を抜け出して下町を散策していたシルヴィアは、王宮に戻るなり父親である国王のところへ連れて行かれ、手紙のことを知らされました。
シルヴィアを王女とは認めない、そういう一派がいることはシルヴィアも知っていました。
なにせ国王は愛妻家として知られ、今でも王妃と仲睦まじいのです。
王妃以外の女性との噂など、これまでひとつもありません。だというのに、王が、王妃以外の女性に産ませたというシルヴィアが現れて、国中が驚いたのです。
本当にシルヴィアの父親は国王なのか。
シルヴィアのことが公になってすぐ、あちこちでそんな疑念が湧きました。ですが国王本人が「私の血をひく者だ」と言う以上、シルヴィアは国王の子です。
「ふざけおって。返り討ちにしてくれるわ!」
届けられた手紙に誰よりも激怒したのは、国王その人でした。王妃は何も言いませんでしたが、不機嫌そうに眉をひそめていたとのことです。
それにしても、建国祭という国を挙げての重要行事での犯行を予告するとは、大胆にもほどがあるというものです。
大胆というより、無謀でしょうか。
何せ当日は、四大侯爵――花家、鳥家、風家、月家が勢ぞろいし、王家と行動を共にします。それゆえ、軍事を預かる月家が威信をかけて警備態勢を敷き、国の諜報部隊を指揮する風家も不審者に目を光らせています。
しかも王家の側には、一騎当千の戦士である、月家代理当主シュウゲツがいるのです。この状況で王家の一員を害そうというのであれば、それこそ軍隊でも動員しなければ不可能でしょう。
「あの手紙、ノトスくんじゃないでしょうね?」
どう考えても不可能な犯罪予告。
だとしたら、これはただの愉快犯か、何か意図があるのかもと考え――シルヴィアは、その可能性に思い至りました。
建国祭は退屈だから抜け出したい。
そんな愚痴を、シルヴィアはノトス――ごく一部の人だけが知っている、風家の当主その人――にもらしました。
一年半前まで、西都という田舎の町でのびのびと暮らしていたシルヴィアです、長い行事の間「姫君」として大人しくしていることは苦痛でしかありません。サボれるものならサボりたいと思うのは、仕方がないことでしょう。
もちろん本気で抜け出すつもりはありません。そんなことをしたら周囲にどれだけ迷惑をかけるか、ちゃんとわかっています。だからこその愚痴なのです。
でも、「シルヴィアならやりかねない」と考えたノトスが、シルヴィアの脱走を防ぐため、犯罪予告をでっち上げて警備を強化した――そう考えると、つじつまが合います。
何せ風家は、情報の担い手にして謀略のすべてを取り仕切る、王国の影の一族。
場合によっては、王家相手にだって謀略を仕掛けると言われています。シルヴィアを大人しくさせ、建国祭をつつがなく終わらせるために必要と考えたら、なんのためらいもなくやってのけるでしょう。事実、警備と監視が強化され、この一週間シルヴィアは行動が制限されてしまいました。
「ただでさえ、退屈で窮屈なのに……ああもう!」
もしそうなら、絶対仕返ししてやるんだから。
心の中で固く決意し、さてどんな仕返しをしてやろうかとシルヴィアが考え始めたとき、キビキビとした足音が近づいてきました。




