14 帰り道
乙女の熱狂をどうにか落ち着かせ、身支度を整えたシルヴィアが玄関ホールへとやってきました。
「シュウゲツ様!」
「お迎えに上がりましたぞ、殿下」
抱き着いてきたシルヴィアの頭を撫でながら、シュウゲツは正面に立つ金髪の美女を見つめます。
「初めまして、アウラ殿。殿下の後見人を務めております、シュウゲツです」
「お会いできて光栄です、シュウゲツ様」
アウラは優雅に一礼し、背後に控えていたコノハたち侍従も主にならいました。
国王すら敬意を払う、月家代理当主その人です。
その訪問に、衣装室で騒いでいて気付くのが遅れたなど、大失態もいいところでした。
「御来訪に気づくのが遅れ、大変申し訳ありませんでした」
「なぁに、今日はただの使い走りだ、気にせんでよい」
とんでもない使い走りだなと、誰もが息を飲みました。
「突然の訪問にもかかわらず、ご丁寧におもてなしいただき、ありがとうございました」
シルヴィアが王女様モードになり、優雅に一礼します。
「いずれ私のお茶会にもご招待させていただきますので、ぜひお越しください」
「ええ、楽しみにしておりますわ」
「ニンリルも」
シルヴィアは、ひときわ熱い視線をニンリルに向けました。
「ぜひ、ぜひ、来てくださいね! 待ってますから!」
「あ、はい、楽しみにしています」
ちなみにニンリルは、まだ王子様スタイルです。コノハたちに代わってシュウゲツにお茶を出したりしていたので、着替える暇がありませんでした。
「ではな、アウラ殿。そうそう、手土産をニンリルに渡してあるから、みなで食べてくれ。俺が作ったミルフィーユだ」
「は? シュウゲツ様が?」
「昔、殿下にねだられたことがあってな。西都にはたいした店がないから、王都のケーキ屋に無理言って作り方を教えてもらって、自分で作ったんだよ。以来、ちょっとハマってしまってな」
「とてもおいしいのよ。パティシエとして、お店開けるぐらいの腕なの」
「それは楽しみです」
「では、帰りましょうか、殿下」
「はい。ではみなさま、失礼いたします」
◇ ◇ ◇
「とても楽しく過ごしたようだね、シルヴィー」
アウラの屋敷を出てしばらく。シュウゲツが問いかけると、シルヴィアは笑顔でうなずきました。
「とっても楽しかったわ。戻ったら、お礼状出さないとね」
「ダシに使ったノトスくんにも、お詫びぐらいはしておきなさい」
「そうね。学校で会ったら、謝っておくわ」
それで、とシュウゲツが改まって問いかけます。
「どうだったかね?」
「アウラ様は……もうお人形ではないわ」
「ふむ。花家の影響下にはない、と」
「ええ。だって、私の魔術が、まったく効かなかったんだもの」
シルヴィアは、帽子からこぼれた銀髪を指でいじりました。
魔術。
月家大当主アキナによって、五十年前にこの世から消された技です。
ですがシルヴィアは、魔術を使うことができました。シルヴィアが西都から王都へ戻らなかったのは、それが最大の理由です。もちろんそのことを知っているのは、アキナを含めごくわずかです。
「お人形であれば、魔術の影響をもろに受けるわ。私の魔術で魅了されたはず。でもアウラ様、それはもう憎々しげに私を見ていたわ」
「これこれ、お前、アウラ殿に何を言ったんだい?」
「ふふ、女の戦いよ」
シュウゲツは軽く肩をすくめました。女は怖いねえ、とでも思っているのかもしれません。
「ねえ、おじいさま」
「なんだい?」
「対魔術の技に、最も長けていたのが風家。そうですよね?」
「ああ、そうだよ」
「なら、そのお力を借りることができれば……」
対魔術の技に長けているということは、魔術への造詣が深い、ということです。対抗するだけではなく、ものによっては使うこともできるでしょう。
「シルヴィー」
シュウゲツの声音が、やや強くなりました。
「大当主も、そして私も。お前には、魔術なんて捨てて幸せになってほしいと思っているんだがね」
「わかっているわ。でも……」
シルヴィアは帽子を目深にかぶりました。
「お母さまを人形にしたやつを……私は許せない」
ぎゅっと握られた手の痛みに、シュウゲツは静かにうなずきます。
「私を王都に連れ戻し、西都に帰れなくしたのもそいつでしょ?」
「そうだ」
「きっと、私も人形にする気ね。だったら戦うわ。思い通りになんてさせるものですか」
「相手は、強大だぞ」
「わかっているわ。でも、だから何なのよ。負けてたまるものですか」
シルヴィアはまなじりを上げ、憎々しげにつぶやきます。
「花家当主、シヴァンシカ。魔女に守られし、聖女の一族。みてなさい、絶対にお母さまの仇をとってやるんだから」




