06 お姫様・ニンリル
アウラの柔らかな手がニンリルのほおを撫で、ニンリルを振り向かせました。
「ほら、恥ずかしがらずに、こっちを向いて」
「あ、いや……」
羞恥に目を潤ませ、口元をわななかせるニンリル。
思わずイジメてしまいたくなる、嗜虐的な気分をぐっとこらえ、アウラはニンリルの胸元に手をやり、邪魔なブラジャーを外しました。
年齢相応の、形よく膨らんだ胸。
スレンダーで、でも凹凸はちゃんとある、なめらかな曲線。
まだ誰も触れたことのないであろう、清らかなその体があらわになります。
この、綻びかけた花のように美しいニンリルを、思いのままにできたら。
きっと、世の男性はそう思うに違いありません。
「覚悟はできた?」
「あ、や……アウラさん、ちょっと、こわい……」
「できるだけ優しくするから。さ、目を閉じて」
「……うん」
ニンリルが、覚悟を決めて目を閉じました。
そしてアウラは……侍女からコルセットを受け取ると、ニンリルの体に巻き付け。
「はい、いきますよ」
「「せーの!」」
ぐいぃぃぃっ、と侍女と協力してコルセットの紐を引っ張りました。
「ぐっ……く、苦しい、苦しいって、これ!」
「我慢よ。これでもゆるい方なんだからね」
「こ、これでぇ!?」
「よし、オーケー!」
コルセットをつけ終えたニンリルを、侍女の一人が鏡の前へと連れて行きます。次はお化粧です。
「お化粧は薄目に、清楚でかわいらしい感じでね」
「髪、どうします?」
「付け毛をしましょう。やはりここはロングでしょう!」
「ドレスは何色にします?」
「アウラ様が黄色ですし……同じ系統で合わせます?」
「反対色にして対比させてもよいのでは?」
「そういえば、かわいらしいラベンダーのドレスがありましたよね?」
「「「「「「それだ!!!」」」」」」
アウラとコノハ、そして五人の侍女ズが、きゃあきゃあ騒ぎながらニンリルを飾り立てていきます。
ドレスに合わせたお化粧をし、ドレスを着て、付け毛をしてロングヘアとなり、けばけばしくならない程度に飾り立てる。
そんなこんなで二時間近くがたち。
「完成ね!」
アウラ以下七名が、「やり切ったぜ!」という満足そうな顔をして、ニンリルを姿見の前に立たせました。
「うっわ……」
鏡に映った女の子を見て、ニンリルはポカンとしました。
「え、うそ……ほんとに、私?」
お姫様です。
誰が何と言おうと、まごうことなきお姫様です。
「いやあ、想像以上にいい素材でございました」
「王宮舞踏会へ参加したら、話題になること間違いなしです」
「王子様方のお妃候補も夢ではありませんわ」
侍女たちが口々に褒め称えてくれます。ニンリルは驚きすぎて声が出ません。
「ね、言ったでしょ? 美女は作れるのよ」
「あー、うん……実感した」
アウラにうなずきつつ、ニンリルは鏡の前でそっと回ってみました。
本当に、素敵なドレスです。
小さいころ読んで憧れた、冒険小説に出てくるお姫様は、きっとこんな感じなのでしょう。
「ふふ、素敵よ、ニンリル」
「うん……ありがとう。ちょっとうれしい」
ニンリルもやはり女の子です。こうして着飾るのは、決して嫌ではありませんでした。
「そうよね、おしゃれは楽しいわよね。さ、いきましょうか」
「え、どこへ?」
「テラスよ。せっかくだもの、お披露目しなくちゃ」
「え、ええっ! ちょっと待って、恥ずかしいよぉ!」
嫌がるニンリルの手を引いて、アウラはテラスへと戻りました。
お昼時ということもあり、遊んでいる子供の数は減っていました。その代わり、お弁当を手に庭でくつろいでいる大人がたくさんいます。屋敷の庭は、子供たちの遊び場としてだけでなく、お昼休みにお弁当を楽しむ場としても利用されていました。
見知った顔がいくつもあります。もしもニンリルだとバレたら、大騒ぎでしょう。
「はい、出て、出て!」
「ちょ、ちょっとアウラさん、勘弁してよー!」
ドレス姿のアウラとニンリルが姿を現すと、庭にいた人たちがざわめきました。
「おお、アウラ様じゃないか」
「やっぱり、きれいな方だねえ」
「おや、今日はもう一人いるね」
「お友達かしら? かわいらしい方ねえ」
ざわめく町の人たちに、アウラは手を振り、大きな声で叫びました。
「みなさーん! お仕事お疲れ様でーす。談話室にお茶をご用意しますから、飲んでくださいねー」
アウラの言葉に、庭の人たちがやんやと拍手をしました。
「ほら、ニンリルも手を振って」
「え、ええっ……」
「こういうときは、堂々としている方が恥ずかしくないのよ」
「は、はあ……」
仕方なく、ニンリルも手を振りました。
親と一緒にお弁当を食べていた子供たちが、「お姫様だー!」と大喜びして手を振ります。中にはよく遊んでいる子もいますが、ニンリルだとは気づいていないようです。
よかった、とニンリルはほっと胸をなでおろしました。
「あ……」
ですが、一人だけ。
ニンリルを見て、目をむいている男がいました。
「と……父さん!?」
「あら、ほんと。お惣菜を売りに来ていたのね」
さすがは父親です。着飾った姿でも娘だと気づいたのでしょう。あんぐりと口を開け、「まじか!?」という顔をしています。
そして、やにわに。
頭に巻いていた手ぬぐいを取って、それに顔をうずめました。
「ふふ、娘のハレ姿に、感極まったのね」
「ち、ちょっとぉ、泣くことないでしょー。ああもう、バレちゃうよぉ」
ニンリルがハラハラしていると、父親がポンと手を打ち、「そのまま待ってろ」というジェスチャーをしたのち、大急ぎで走っていきました。
「え、あれ……どうしたんだろ?」
突然の父の行動に困惑していると、背後に控えていたコノハが答えてくれました。
「ニンリル様のご母堂を呼びに行かれたのでしょう」
「え、ええっ!?」
「娘のハレ姿ですから。母親にも見せたいというのは、当然のお気持ちかと」
「ふふ、素敵なご両親ね」
「いや、待って、ちょっと待って。二人して泣いたりしたら、バレちゃうよー!」




