序文 愛の告白
私の名はアウラ。
とある王国に暮らす、十九歳の女でございます。
私は一人の少年を愛しています。
彼の名はノトス。
七つも年下の十二歳。声変わりもまだの、少女のように美しい男の子。
けれど決して弱くはありません。
彼は、抜群の格闘センスの持ち主です。
年相応の背丈に肉付きで、決して体格に恵まれているわけではありません。ですが、力の使い方がお上手なのでしょう。女だてらに一通りの護身術を心得、彼より頭一つ大きい私を、いともたやすく組み伏せてしまうのです。
彼は、銃の名手です。
物心ついた時には、おもちゃ代わりにして慣れ親しんでいたそうです。
信じられますか? 大勢の人が行き交う大通りで、誰に当てることもなく、通りの向こうにある看板を撃ち抜く、そんなことを軽々とやってのけるのですよ。
そしてなによりも。
彼は、侯爵・風家の若き当主です。
花鳥風月の名を冠す、建国の英雄を祖とする王国四大侯爵家のひとつを率いているのです。
風家の役割は、王国の影を統べること。
情報と謀略を一手に引き受け、王国内はもとより、大陸全土に目を光らせる究極の暗部。謀略渦巻き、今日の味方が明日の敵となる、そんな世界の支配者です。
ええ、命を狙われることなど、日常茶飯事でした。
ですが彼は、そのすべてを退け、返り討ちにし、わずか十一歳のときに実力で支配者となり仰せました。
いまや風家は、ノトスという若き盟主のもとで、岩盤の如き一枚岩となっております。当面、風家に正面切って挑む者など出てこないでしょう。
それほどの方を、愛さないなどありえましょうか?
私は彼を、一人の男性として心より愛しております。
地上に降り立った神のごとく、崇拝すらしております。
彼が毒を仰げといえば、私はそれを美酒のごとく飲み干すでしょう。
彼が崖から飛べといえば、私は鳥になりきり空へと舞い上がるでしょう。
彼が殺せと言えば、それがたとえ赤子であっても、私はためらわずナイフで刺し殺すでしょう。
私にとって、彼がすべてなのです。
すでに身も心も捧げました。
一欠片も残さず、私は彼のものとなりました。
なれば命を捧げるなど、容易いことではありませんか。
私の名誉や誇りなど、彼の願いをかなえることに比べれば、道端の石ころほどの価値もないのです。
ああ、いけません。
ずいぶんと独りよがりな、気持ちの悪い駄文となってしまいました。
彼への想いは語り尽くせておりませんが、今はこの辺にしておきましょう。
では、私の気持ちはできるだけ抑えて、ひとつ彼にまつわるエピソードを語りましょう。
公には語れぬことの多い彼ですが、これであれば、さほど差し障りはないでしょうから。
どうぞ、彼の人となりの一端に触れてくださいませ。