表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/125

09 悪魔の色香

 教授の背中を、冷たい汗が流れました。


 イカレてやがる。


 アウラが我が身を毒草に例えたのは、なんの謙遜でもなく、事実でした。教授はそれを思い知らされた気分です。


 「さあ、先生。私をどうなされます?」


 気がつけばアウラは教授の膝の上に乗り、しなだれかかるように抱きついていました。なぜそれを許してしまったのか、教授にはわかりませんでした。


 「お、降り……ろ……」

 「ふふ、この程度でうろたえるなんて……お可愛い方」


 アウラが教授の頭を抱きかかえ、その胸に押し当てました。


 「色香に惑わされぬよう訓練を受けている。そう豪語されておられたというのに。女に溺れたこともない殿方の、強がりでございましたか?」


 アウラの唇が、教授のひたいに押し当てられました。そして、そのまま教授の鼻をなぞり唇へとたどり着くと、教授の口をふさぐようにしっかりと重ね合わされました。

 カリッ、というわずかな音に続いて、アウラの舌が教授の口をこじ開け、唾液と一緒に甘い蜜を流し込みました。


 「うぐっ!?」


 しまった、と教授はアウラの腕を強引にほどき、力任せに突き飛ばしました。


 「きゃっ!」

 「き、貴様ぁっ!」

 「ふふ。巨象も眠らせる強力な睡眠薬です。量を間違えると死にますが……私とのキスの代金としては、お安いでしょう?」

 「そ、そんなもの、どこに……」

 「私、下着に色々仕込んでいますので」


 あの時か、と教授は歯ぎしりしました。

 服を脱ぎ、質問をしながらわざと下着を切り刻んだ時、アウラは下着に縫いこんであった薬を取り出したのです。そして、ナイフでわざと指を切り、切った指を舐めるときに口の中へ放り込んだのです。


 「女の色香、甘く見たあなたの負けです。服を脱げなんて、言うべきではありませんでしたね」


 ぐらり、と教授の視界が揺れました。もはや四肢が動かず、意識が朦朧としています。


 「貴様っ!」


 教授が倒れたのを見て、助手の男が猛然と飛びかかってきました。

 アウラはそれをちらりと見て。


 「ニンリル、目と耳を塞ぎなさい」


 そばにいたニンリルにそう命じました。

 とっさにニンリルが目と耳を塞ぎます。アウラは横目でそれを見ながら、突進してくる男に向き直ると。


 ふう、と息を吐き。

 突き出された男の手をいなし、その力を利用して、男の巨体を宙に舞わせました。


 「がっ!」


 どしん、と男の巨体が床に落ちました。すかさずアウラは、つかんだままの男の手を躊躇なくねじ切りました。


 ばきり、と骨が折れる鈍い音と男の絶叫が響きました。

 女学生たちが青ざめ、引きつった悲鳴をあげました。


 アウラは苦痛に呻く男に駆け寄ると、ぺっ、と手に唾液を吐き、それを強引に男の口に押し込みました。


 「鎮痛剤代わりです。召し上がれ」


 睡眠薬混じりの唾液を飲まされ、助手の男はあっという間に眠りに落ちてしまいました。


 「く……そ……」

 「あら、まだ起きてらしたの? 大した方ですね」


 一方教授は、床に倒れながらも猛烈な眠気に抗っているようでした。ひょっとしたら、薬物に一定の耐性があるのかもしれません。


 「では、まだ意識があるうちに、一つだけ補足を」

 「な……んだ……」

 「風家当主の配偶者が、諜報員としての訓練を受ける必要は、確かにないのですが」


 アウラはふわりと笑いました。

 その目がとろけているのは、己の幸せを噛み締めているからではなく、自身も睡眠薬を飲んでしまったからです。


 「私は一通り受けておりまして。すぐにでも前線に投入したい、と指導教官から大変なお褒めの言葉をいただいたのですよ」

 「この……悪魔、め……」

 「お褒めの言葉と受け取っておきますわ」


 教授は悔しげな顔で呪詛を吐き、がくりと眠りに落ちました。


 「なんとか、なり……ましたね」


 アウラは振り返り、呆然としている女学生たちに微笑みました。誰もケガをしていないようで、ほっとします。


 「さて、ブレンダ様」

 「え……あ、はいっ!」


 急に呼ばれたブレンダが、我に返って立ち上がりました。

 アウラは、その生真面目そうな態度を好ましく思い、ふふ、と笑います。


 「最年長ということで……申し訳ありませんが……あとは、よろしくお願いしますね」


 そう言い終え、ふわりとあくびをすると。

 アウラは、倒れるように眠ってしまいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ