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第四十三話 賞金稼ぎギルド 2


「まあたまには、その情報収集力というか、蓄積力を頼みにされて、あのお嬢ちゃんみたいな人探しを頼まれることもある。と、いうわけでだ」


 ウルフはデスクに身を乗り出して言った。


「賞金稼ぎをやってみねえかい。賞金稼ぎギルドに登録し、お尋ね者を追う。なに、本職にする必要はねえんだぜ。賞金のかかったお尋ね者の情報をギルドが提供し、あんたはそれを頭の片隅に入れておく。そして気の向いた時に調査するだけでもいいんだ。それで何かわかったことがあったら、各地のギルドに立ち寄って伝えるだけで、ちょっとした小遣い稼ぎにもなる」


 賞金稼ぎ。


 たしか前世の地球、アメリカ合衆国にもそんなシステムがあったはずだ。アメリカにはギルドがあるわけではなかったとは思うが。


 この異世界の賞金稼ぎギルドは、どちらかと言えばアメリカのIT企業が始めた、タクシーの配車サービスを連想させた。


 サービス会社に登録することで、普段は別の仕事をしながら、時間の空いた時にタクシー運転手に早変わりする。

 タクシー会社に勤めているわけではないので、いつやるかは自分で決められる。

 そういう自由な参加スタイルによって、広い地域でたくさんの運転手を確保できるという、そんなサービス。


 登録をするのも、仕事を受けるのも、自分が客となってタクシーを呼ぶのも、スマートフォンのアプリによって行なうことができる。


 前世で持っていた自分のスマートフォンの画面に賞金稼ぎアプリのアイコンが表示されているところを想像した。休日の退屈を紛らわそうと、ベッドに寝転びながら、新着の悪党の更新マークがありはしないかとスマホをチェックする自分を。


 俺は左腕のラリアを見やった。寝ている。


 ゴースラントへ行くには資金が必要だろう。定職に就かずに移動しながら金を稼げるならなおいい。本来冒険者ギルドの仕事ならそれが可能なようだったが、あっちには顔を出しづらい。タイバーン王国からもっと離れれば、懸念も薄れるかも知れないが……。

 俺は尋ねた。


「賞金稼ぎギルドというものは、サッカレーだけのビジネスか?」

「冒険者ギルドみたいに、国をまたいで連携してるのかって訊いてるのか? …………ロス・アラモスさん」


 ウルフはニヤリと笑った。

 記憶をたどる。俺は名乗っただろうか。いや、名乗っていない。今1階で俺たちの話が終わるのを待っているだろうキリーも、この建物に入ってから1度も俺の名を呼ばなかった。


「俺があんたの名を知ってるのが不思議って顔してるな」


 不思議に思わないはずがない。

 俺の黒いコートには体操服みたいにデカデカと『あらもす』と書かれた名札がついているわけではない。

 俺は姿勢を正して、左拳を握った。思い直して右にする。ウルフがそんな右拳に目をやりながら言った。


「気持ちはわかるが、心配しなさんな。あんたに賞金がかかってるわけじゃねえ」

「ではなぜそっちは俺の名を知っているんだろう?」

「タイバーンでエンシェントドラゴンが討伐された事件は俺たちの耳にも入ってる。あんたは、あんたが思ってる以上に有名人だ。質問に答えよう。賞金稼ぎギルドは国をまたいだビジネスさ。チレムソー教圏で活動するギルドだよ。冒険者ギルドと同じでな」


 俺が右拳を開くと同時にウルフも視線を俺の顔に向ける。


「……あんたについてはちょいと奇妙な噂を聞いたが、まあ尋ねやしねえよ」

「どういう意味だ」

「いやなに、たいした噂じゃねえのさ……。タイバーンの王が襲撃されると同時に、ドラゴンハンターが姿を消した。それだけよ」


 やはり右拳を握りなおそうかどうか考えていると、ウルフは続けた。


「噂は、噂だ。それ以上は訊かねえ。それが賞金稼ぎギルドのマナーだ。噂の真相がどうであろうが関係ねえ。むしろそんな噂の立つ奴ほど、この業界じゃ有能なハンターになれる」


 ウルフは椅子の背もたれにふんぞり返った。そして自分の顔を指で撫でながら言う。


「賞金稼ぎギルドに登録してるバウンティハンターはみんなスネに傷を持ってるのさ。悪党よ。だから悪党の匂いを嗅ぎつけられる。発想が似てるから、行動が読めるんだよ。その点があるからこそ、俺たちは王立捜査官や護法騎士の奴らの先を行ける」


 そしてまたニヤリと笑った。

 王立捜査官やら護法騎士といった新たな名詞が出てきたが、そこを掘り下げるのはやめにしておいた。

 ウルフが言いたいのは、蛇の道は蛇ということだ。


「だから俺の勧誘を?」

「実はさっき見てたんだ。あんたが4人のスリをブッ飛ばすのをよ。さっきスキンヘッドの奴がいたろ? あいつがあの騒ぎをたまたま見てたのさ。あんたが簡単にスリを見抜いたのもな。腕が立つ。目がいい。疑り深い。町の治安を守るにはあんたみたいな奴が必要なのさ。他人を信用しない、目つきの悪い猟犬がな」


 スキンヘッド。

 俺とキリーがここへ入った時、入り口で後ろに立っていた男だ。ウルフはたまたま見ていたと言ったが。


「……たまたまじゃないんだろう? つけていたな。あんたたちは俺がどんな奴か知りたかった」

「それだ、その想像力。そういうところだよ、善良な民衆が必要としてるのは」


 ウルフは笑った。

 町の治安。善良な民衆のため。

 どうせそれも嘘なんだろう。

 ウルフのようなタイプの男には、この仕事が楽なだけだ。需要があり、経歴は問われない。


 学歴もだ。


 俺は言った。


「いいだろう」

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