08 主人公登場
「いつまでもここに居ても、息が詰まるだろう?」
目が覚めるとパッパにそう言われ、翔は屋敷の庭に連れて行かれた。
そして現在、西洋式東屋――ガゼボの中で彼女と向かい合っている。
翔とパッパがついているテーブル中央には謎の水晶が鎮座しており、怪しい光を放っていた。
給仕をしているペルズナーはそれを見てもなんの反応も見せずに淡々と茶を注ぐ。
おそらくこんな怪しいものが置かれているというのに違和感を抱いている人間は翔しかいない。
「……これはなんだ?」
翔が口からそうこぼすとパッパは目を見開いた。
「おお、これは魔力測定器だ!」
――そういえばこれがパッパに対して初めて言葉を発することになるのか。
こちらが言葉を発したせいか、パッパはやる気がみなぎた溌剌とした顔になると口を開いた。
「マーチ、それに触れてくれるか」
翔は断る理由もないので促されるまま、その水晶に触れる。
すると水晶は黒く染まり、パッパのモノクルに文字が羅列されていた。
「ふむ……。魔力の性質は至って普通か。魔力が呪いに関係しているわけではなさそうだな」
パッパはそう呟くと、たくさんの項目が書かれたメモの一番上の項目に線を引いた。
おそらくあそこにかかれた項目全部を試すつもりなのだろう。
彼女のその様子からこちらのスキルについて、本気で消そうと思っていることを確信する。
「あんた、なんでそこまでこっちのスキルを消そうとしてくれるんだ? 友達のためとはいえ、さすがにそこまでする必要はないだろう」
単純に疑問に思ったことをパッパに投げかけると、パッパは考えるような顔になった。
それから茶を一杯口に含むと応えた。
「確かにお主の言う通りかもしれんな。お前の父のためだけでここまでするのはおかしい」
それからまた考えこむような顔になって、まるで自分の内側を覗き込むように目を伏せると再度口を開いた。
「私自身気づいていなかったが、お前の呪いをどうにかしようと思ったのは私の理想が関係しているのかもしれない」
翔はその言葉に耳を傾けた。
パチオンの視点からほとんど見ており、パッパが持っていた思想や願いは知らなかったからだ。
知っているということはパッパがマーチを助けようとした善人というだけだ。
彼女がなぜ善人なのかは知らなかった。
NPBの一ファンとしては是非とも聞いておきたい。
「私は人々が自分らしく生きれるような世界を実現したいという理想を持っている。だから私は呪いのせいで塔に閉じ込められているお前を解放し、マーチがマーチらしく生きられるようにすることで自分がその理想を叶えられるという証明をしたいのかもしれないな」
そうパッパは言葉を紡いだ。
彼女がどうしてそんな理想を描いたかはわからないが。
パッパがなぜ善人なのかは分かった。
彼女は純粋ゆえに善人なのだ。
人々の醜さや悪辣さを知らないからこそ、この理想が言えたのだろう。
知っていれば自分らしく生きれたらいいなど言う訳がない。
「陛下……。また世迷言ですかな。あなたはあなたの一族が培ったものを継承すればいいのです。理想は理想でしょうに……」
声の方を振り向くと、太った貴族然とした男と気品の高そうな若い青年がいた。
翔は言葉を発した太った男ではなく青年の方に目線を釘付けにされる。
その青年はNPBの主人公パチオンだった。