05 廃棄世界
こんなイベントは知らないぞ!と翔が内心で叫ぶがペルズナアーはそんな翔の意思とは関係なくこちらに近寄って来る。
「貴様の目、確かに意思があるように見える……。前見たときは確かに空ろな目をしていたはずなのだがな」
そうこちらに言うと、血濡れの男は片手に持った黒いものを床に投げた。
床に落ちたそれを見るとガスマスクだった。
翔はそのことに大きな違和感を覚えた。
「なんでファンタジーのこの世界にこんな現代チックなもんがあるんだよ……」
――しまった……。
一人ごとをよく言う癖でつい言葉を発してしまった。
マーチ姫はほぼほぼ言葉を発しない設定だというのに。
「今度は言葉か。ますますあの姫らしくない。お前何者だ?」
ペルズナアーはそう言葉をこちらに投げかけると瞳に疑念の鋭い光を宿した。
翔はその様子で確実にこちらに疑念を持たれたことを確信する。
「新しく併合された異界テラのものか? 陛下に危害を加えようというのならあの仮面のもの達と同じことになるぞ」
ペルズナアーはこちらに畳かけるように問いかけると、止めとばかりに目でガスマスクを示した。
その所作はペルズナアーの三白眼と相まって、堂に入り恐ろしかったが翔はそれよりも奴の「新しく併合された」という言葉の方が気になった。
まるでこれまでも併合されてきたようなその言葉のニュアンスがひどく不気味に思えたせいだ。
「新しく併合されたってどういうことだ?」
「うん?」
こちらがそう問いかけるとペルズナアーは虚を突かれたような顔を一瞬すると眉間に皺を寄せた。
「……とぼけているのか? 我らの世界――神に無価値だと断じられた世界の人間だというのに併合されたことを知らないはずがない。お前も確かにこの廃棄世界に併合された時、『お前らの世界は無価値』だという神の声を聞いたはずだ」
翔はペルズナアーが言った言葉に理解が追いつかなかった。
無価値だと断じられた世界。併合。神の声。
そんな設定NPBには存在しなかったはずだ。
「どういうことだ?」
翔は困惑し、だれに聞くともなくそう虚空に問いかけた。