21 攫い返す
ペルズナーと同じ要領でパッパに飛んでもらおうと翔は脱出する算段を立てていたが、当の本人がこの状態ではとてもではないが出来そうにない。
ペルズナーの言から、自分の身体能力が一時的に上がるのは魔力のおかげだと知っていたので一縷の望みをかけて、ステータスを表示する。
体力10/10
魔力18/0
だがそんな都合のいいことなどなく、やはり魔力はもうなくなっていた。
ペルズナーに迫る魔法をいなし、パチオンと戦闘したのだから、魔力が尽きて当然だった。
むしろ、この少ない魔力でよくここまでやれたものだ。
袋小路に追い込まれたというのに、自分の体に感謝を述べたい気分に襲われる。
だがそんなことを今思っている場合ではない。
速くパチオンから何とかしてパッパと共に逃げなければならない。
パッパを抱き上げようと手を伸ばすと、彼女は身を捩った。
「やめろ、マーチ。奴らの目的は私だ。私に手を貸せばお前は確実に死ぬ」
パッパはまるで翔の状態が分かるように空ろな目を見つめてそう言う。
それから、口から声を出すのもつらそうだというのに、口を開いた。
「それに叔父は私が死ねば、理想だけは叶えてくれると約束した」
その言葉を聞くと、翔はギリリと歯を軋ませた。
それと共に体の内から怒りがこみあげて来る。
土台そんなことを守るとは思っていないだろうに、あまつさえ諦める言い訳にそれを使う、パッパの態度があまりにも翔の腹に据えた。
「だからここで死ぬていうのか……」
そう言って、パッパを睨みつけると胸倉を掴む。
パッパは予期していなかったのか、そうした翔を驚いた顔で見つめる。
「ふざけんじゃねえ!」
翔はそんなパッパの様子を気にせず、彼女の上体を自分の顔に近付けると、そう吠えた。
「勝手に攫って、勝手に救うて誓って、勝手に死んでんじゃねえよ!」
再度吠えると翔は息が上がったように、荒い息を吐く。
「自分がやるって言ったことくらい諦めずに最後までやれよ……」
パッパは始終、見えない目を目いっぱい開いて見つめ、最後に翔がそういうと、何か言いたそうにしたが、口を噤んだ。
その様子を見て、翔はやっと我に返った。
――やりすぎだ。追い込まれているとは言え、こんなの……。
翔が後悔しながら、首元から手を離すとパッパの手がそれを引き留めた。
「私をここから、連れ出してくれ」
彼女は翔の腕を強く握ると翔にそう頼み込んでくる。
「ああ! 最初からそのつもりだ!」
翔がそう答えて、パッパを抱き起こす。
するとおぼつかない足取りだが彼女は立ち上がった。
それを見ると状況は最悪だが、何とかなるんではないかという気がしてきた。
パッパの手をほどけないように強く握り、走り出そうとすると
「それは出来ないだろ。俺はソイツを殺さなきゃならないんだからさ」
芽生えた思いを踏みにじるように、パチオンの声が鼓膜を揺らした。
見ると完全に復活したようで、薬を2包、口の中に放りこんでいる。
これでパチオンの強化倍率は4倍になった。
そのことを理解し、自分が死ぬだろうことを確かに翔は確信する。
翔の額に汗がにじむと共に、パッパの手を離した。
剣の柄を強く握ると共にパチオンに向けて再度構える。
パチオンはさきほどと同じ様に、飛んだ。
翔の手はそれに合わせて動いた。
「グッ!」
だが拮抗することなく、翔の腕が折れた。
まだかろうじて剣は掴んでいるが、とてもではないが振れたものではない。
「これで終わりだな……」
パチオンは無力化したことを確認するようにそういうと曲刀を上段に構えた。
翔はそれを見つめることしかできない。
パチオンの曲刀が振り下ろされる。
おおよそ頭から真っ二つかとそんなことを翔が思っていると、議会場にいきなり破砕音が響いた。
「どかぬか、無礼者が!」
聞きなれた声が聞こえると共に、パチオンが眼の前から飛んでいく。
代わりに馬車に乗った執事――ペルズナーが現れた。
「ペルズナー! お前……」
「減らず口を叩く前に乗れ!」
彼はそういうと翔とパッパを馬車の中に放り込む。
「ハッ!」
それから、ペルズナーはすぐに鞭を振る。
「おっさん、邪魔をするなよ!」
パチオンは曳かれたというのに、参った様子もなく、ペルズナーに向けて炎を放つ。
「フンム!」
ペルズナーはそれに対して、すかさずに土の壁を作る。
土の壁はすぐに壊れたが、炎をは防ぐことに成功した。
ペルズナーはそれに不思議そうな顔をしながら、鞭を振るう。
「どうして俺の土魔法の方が優位なはずなのに、奴の火魔法一つで破られる?」
「『ブックバーニング』とか言う奴のスキルのせいで、こっちの魔法の威力は八割そがれるからだ」
「お前は本当に物知りなものだな」
翔が彼の疑問にそう答えるとペルズナーは再度鞭を振るう。
馬は嘶くとさらに加速し、壁を打ち壊して、外に飛び出した。
耐久力といい、速度といい何かおかしいと思い、馬を見ると頭から角が生えているのが見えた。
どうやらモンスターか何かの類のようだ。
背後を見ると、追いかけるパチオンをはるか後ろに見える。
あの分ではこちらに追いつくことはできないと確信すると、疲労がこみあげてきた。
思わず荷台の床に大の字に寝転がる。
「何とか攫えた……」
それからそういうと翔は大きく息を吐いた。




