02 パッパ姫
翔は鏡に映る能面のような顔を見る。
鏡には人形のような顔の女が映っていた.
――なんだこれ?
翔は顔の筋肉を動かしているはずなのに、顔はなんの表情も取らない。
「マーチ姫は16年間塔に幽閉されている設定だったけど、顔の筋肉が使い物にならないなんてリアルによせに行きすぎだろ」
表情もとれていないというのに、翔の頬は痛くなってきた。
「人と接することがないんだから、表情を浮かべることがないことは確かなんだけど」
――でもそこまでリアルにすることも無いだろうに。
そう内心でつぶやいていると、扉が開けられた。
「古い城だが、中々のものだろう。マーチ」
「陛下、危険です! 一刻も早くアルヘイムに戻すべきです。イクセリアの娘とは言え、この娘は……」
そしてモノクルの少女――パッパ大魔王こと正式名、パルシア・パプと髭を蓄えた中年男――執事兼護衛のぺルズナアーが言い合うような形で部屋の中に入って来た。
パッパはこちらに向き合い、少女らしからぬ慈愛に満ちた笑みを浮かべ、ペルズナアーは汗を浮かべてその横顔を覗き込んでいる。
――傍から見れば、良くある主従関係だが、その実、ペルズナアーはパッパへのクーデターを水面下で進めているのだからわからないものだ。
ペルズナアーのパッパに親身になっているようにしか見えないその態度を見ながら、翔は背筋に冷たいものを感じる。
思わず奴から目をそらして、パッパに目を向ける。
「呪われた姫よ。このパッパ、大魔王の名に誓わせてもらう。必ずお前の呪いを解き、お前と我が朋友、イクセリアが再び笑えるようにすることを」
パッパはこちらの顔を抱き寄せるとそう宣言した。
「少しの間だが、お前は吾輩のママなのだから、娘である吾輩の言うことを聞いてもらうがいいな?」
心のない娘を気遣うように話かけるパッパ姫。
十年前、このシーンに翔は感動した。
だが、パッパ姫がこの先に迎える結末を知っている翔は彼女のこの善意を皮肉に感じた。