第5話 アマツの本気
オーガが現れたことで、俺への質問は強制的に終わったが、それ以上の問題として、騎士が飛ばされてきた。質問が終わったことに安心している暇は無い。
国の騎士団に所属しているのなら、国の中でも戦闘に秀でたエリート集団のはずだ。それにも関わらずその騎士を掴み、投げるほどの強さを持ったオーガ。そんな存在と戦えば、いくら異世界に来て身体能力が上昇したとはいえ、簡単に殺されるイメージしか湧かない。
「各員、速やかに陣形を組み直せ!負傷者は下がらせろ!」
俺に話しかけてきた騎士が指示を出し、なんとか立て直すことに成功する。どうやらあの騎士は指揮官のようだ。
「君も早く逃げるといい。ここに居ては危険だ。」
『どうする?逃げるのか?』
え?考えるまでも無いよな?俺が居たところでどう考えても役に立つようなこと無いし、よし、逃げよう。
そう思ったが、俺はこれからこの世界で生きていくことになる。それがいつまで続くのか、それはわからないが、ここで逃げたらいつまでも逃げることしか出来なくなる。………中学の時のように後悔するのはもう嫌だ。
「いや、俺は………、見届ける。そうしなきゃいけない。そんな気がする。」
『そうか、ならばよい。』
アマツが満足そうに言ってくる。この戦いで、俺がこの世界でやらなければいけないことがわかるはずだ。………まぁ、働きたくないのが本音だが、そうも言っていられないというのが実情だろう。
俺が少し考えている内に騎士団は陣形をオーガを囲うように整え、オーガに攻撃を始めた。
先程までは見る余裕が無かったので、オーガと騎士団をスキル《真眼》で見る。
オーガ
職業 モンスター 破壊者
スキル
自動回復
狂戦士
魔法耐性
自動回復
ランクA
自身の体力を毎秒5%回復する。
狂戦士化
ランクEX
理性を失う代わりに自身の能力を飛躍的に上昇させる。
魔法耐性
ランクA
魔法によって受けるダメージと効果を半分にする。
どうやらオーガは単体での戦闘能力が高めの近接特化型のようだ。対して騎士団はと言うと、
マグナス・アルティス
職業 騎士団団長
スキル
剣術
指揮
火魔法適正
修得スキル
槍術
回復魔法適正
剣術と槍術はその武器を使うときに自身の能力を上昇させるスキル、指揮は自分が指示をするとされた仲間の能力が上昇するスキル、魔法適正はアマツの劣化版だ
団長がこれである。その団員はスキル《指揮》が無く、魔法適正に違いがあるが、似たり寄ったりのスキル構成ばかりだった。どうやら、この騎士団は全員が攻撃重視で回復役が団長しかいないというかなり前のめりな騎士団のようだ。
騎士団全員がオーガに攻撃を仕掛けることで傷を付けていくが、オーガの《自動回復》の回復量を越えられずに消耗していく。このままの状況が続けば、そう遠くない内に全滅してしまうだろう。そうなれば次のターゲットは俺になるはずだ。
このままだと不味い。そう思うが、俺に出来ることは何も無い。魔法は使えない。武器を持っている訳でも無い。唯一この絶望的な状況を切り開く力があるとすれば、それはアマツに力を貸してもらうしかない。
『どうした?わしをじっと見つめて。何か用か?』
「………あのオーガを倒したい。この状況はアマツ、お前にしかひっくり返せない。魔法攻撃に耐性があってもお前ならば撃ち抜けるだろ?頼む。」
『頼み方がなってない。そう言いたいが、お主の頼みだ。聞いてやろう。“魔力円環”、“ファイアバレット”』
アマツがそう言うと俺の足下に巨大な魔法陣が描かれる。そしてその魔法陣から火の粉のように魔力が舞い上がる。舞い上がった魔力は渦となり、そして渦より炎の弾丸がマシンガンの如くオーガに向かって射出される。
なんの告知も無しにアマツが魔法を放った為、騎士団に当たるとも思ったが、魔法陣が描かれたタイミングで全員がオーガから距離を離していたので巻き込まれることは無く、騎士団が離れたことで自由に動けたオーガだったが、俺のことを最優先で倒さなければならない相手と認識したのかこちらに向かってきたが、炎の弾丸が連続で放たれ、オーガが急所に当たることを嫌い、それを腕で防御することによって動きが止まった。
『これが使えるとは………、お主は過去の主全てを越えた………』
「おい、何の話をしてる?オーガの動きが止まっている程度だぞ!」
『いや、なんでもない。これはまだ序盤だ。お主には魔法戦闘の本気を見せてやろう。“ファイアアロー”!』
そうアマツが言うと、魔法陣の中から巨大な槍にも見える矢が出現する。矢はオーガに向かってとてつもない速度で放たれ、オーガの防御ごと胸を貫き、オーガが倒れた。
「やったか?」
騎士団の誰かがそんなことを言った。
「おいおい、誰が強化回復の言葉を言って良いって言ったんだ!!」
俺が叫ぶもお約束は発動してしまったようで、オーガの深紅の肌は黒くなっていき、頭の角はより巨大に、そして体躯もやや大きくなっていった。恐らく狂戦士化を使用したことによる変化だろう。
狂戦士化された影響なのか、炎の弾丸が急所に当たることを気にしなくなったのか、動きを止めることは出来なくなった。だが、運良く、胸に刺さった矢が倒れた際に地面に刺さったようでオーガは矢を体から抜こうともがいているのでしばらくは動けないだろう。
『まぁ、これで止めだろう。“ファイアウェーブ”』
オーガを火の海が覆い、オーガを焼いていく。理性が無いとはいえ、神経が焼かれれば痛いのだろう。オーガが絶叫しつつも炎から逃れようと抵抗する。しかし、炎は容赦無くオーガを焼き、最後にはオーガだった灰が残るのみだった。
この世界ではやはり時に非情にならなければ生きてはいけないようだ。そう思ったのも束の間、俺は騎士団に質問責めと感謝と勧誘をされるのであった。