第3話 選定
「………、どこだ?ここは………」
この世界で知っている場所なんてグラン皇国の中の極一部しか知らないけどな。
《真眼》には[選定の間]と表示されている。しかし、目に写る景色は地面と壁の境界が見えない………いや、無い。そんな場所だ。
「どうしたもんか………、そもそもここから出られるのか?」
もしも出られないなら一大事だ。食料なんて持っていないから3日ともたないだろう。
『汝、力を求めるか?』
どうするか考えていると急にそんな声が聞こえてきた。いや、聞こえたというのも正確では無いかもしれない。なぜなら頭の中に直接声が送られてきているからだ。
「うわっ、気持ち悪っ!」
『おい、お主。気持ち悪いとはなんだ!気持ち悪いとは!』
「頭の中に直接語りかけるとか、普通の人間は出来ないから!嫌悪感でるのも仕方ないから!」
ほんと、いきなりはやめて欲しい。せめて立て看板でもして、頭の中に直接語りかけます。くらいの注意書きくらいはして欲しいものだ。あといきなり威厳のあるしゃべり方が崩れたけど、恐らく今のしゃべり方が素だな。
「で?何か用?俺はここから出たいんだけど?」
まぁ、ゴブリンが居るであろう神殿に戻されるのは勘弁してほしいが………。
『いや、力が欲しいか?と聞いておるんだが?』
「力?いらないいらない!そんなん持ってもロクなことにならんし、むしろ俺は働きたくねぇ!」
力を持ったことが原因で戦闘とかに巻き込まれるとか、洒落にならない。それに俺はニートのように仕事なんてせずに生きていきたいのだ。命なんて賭けたくないのだ。
『………、お主、どうやって生活するつもりなんだ………。』
「ここから出て街でも見つけたら考えるわ。」
現時点で立てられるプランなど、存在するわけがない。この世界の情報が少な過ぎる。どういう制度があって、どういった労働があるのかもわからないのにそんなの考えるだけ無駄だ。
まぁ、魔王なんて存在がいるらしいし、冒険者や冒険者ギルドくらいはありそうだが………。
『お主、そんなんでよくここに来れたな………。素直に感心するわ………。』
………?ここに来るのには何か条件があるのか?
『条件は言わんぞ?というか言えぬ。そう契約しておるしな。とはいえ、お主が選ばれたことは確かだしな………。』
何に選ばれたかは知らんが、断るしか選択肢は用意していない。
『お主には、m「断る!」』
人の会話を遮るのは社会人として不味いが、面倒事を事前に回避するのも社会人には必要なスキルだ。特に仕事が自分の処理能力を超えないように降りてくる仕事を回避することが一番重要だ。これを失敗すると超過残業や休日出勤をする羽目になるのだ。その結果、自分の肉体と精神の状態が悪くなり壊れるのだ。
まぁ、今はその話はどうでもいい。仕事は振られる時に自分で予定を立てて終わるまでのプロセスを組むようにしなければ壊れる。それだけの話だ。
「面倒なのは嫌なんだよ。ところでここから出て街に向かいたいんだが、どうすればいい?」
『お主、面白いな。………よし、合格だ!』
………は?聞き間違いか?合格とか聞こえたんだけど?
「え?聞き間違いか?合格とか言ったか?」
『言ったぞ?合格だとな。お主、わしの持ち主な。これ、決定事項な。拒否出来ないからな。』
声がそう言うと、俺の右手が輝き始める。しばらくすると光は弱くなり、右手に先程まで無かった腕輪が付いていた。………が、輝きを放っていたとは思えない程に錆び付いた腕輪だった。
腕輪は厚さが1cmくらいある鉄板を手首にぴったり曲げたような感じで、特に装飾なんかは無く、腕の曲げにくさは無いが、日常生活に若干の影響がありそうな腕輪だ。
『さぁ、これでわしとの契約が成立したな。これからよろしく頼むぞ?主よ。』
「は?契約だと?………まじか。」
ステータスを見てみると、勝手に契約が結ばれていた。
契約
黒鉄 恵は聖輪 アマツの主として聖輪 アマツを常に身に付け、聖輪 アマツはその力を黒鉄 恵の為に使うこと。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
違約時の強制力 無し。
俺にメリットが無くは無いが、アマツに何が出来るのかがわからない。それに最後の方は文字が潰されているのでそこに大切な文言が隠れているような気がしてならない。真眼では隠蔽された通路は見えても隠蔽された文言は見えないようだ。………真眼もあまり使えないスキルなのかもしれない。
ともかく契約してしまった以上、違約時のペナルティが無いとはいえ、破るのは俺自身が許せないので、守る気はあるのだが、こう、なんだ、強制的っていうのがなんだが嫌なところだ。
とりあえずアマツを見てみるとステータス(といってもスキルだけだが)を見ることが出来た。
アマツ
職業 装備品
スキル
全魔法適正
魔喰
意思伝達
全魔法適正
ランクEX
全ての魔法を使うことが出来る。消費魔力は5%カットする。
魔喰
ランクEX
魔力、魔法を捕食して自身の魔力にすることが出来る。
意思伝達
ランクB
対象を選択してその対象に自分の意思を伝達することが出来る。また、同一言語が話せない場合でも同等の意味の言葉に置き換えられるので、動物との会話もある程度は可能。
……元勇者の俺よりもスキルが攻撃的だ。最後のスキルは恐らくアマツには必要なスキルだが、それ以外が選んでいるとしか言えないんだけど………。まぁ俺自身は戦闘する気なんて無いから戦闘系スキルなんて死にスキルなんだけどな………。どうせなら金貨を無限に生み出すとかそういう感じのスキルだったらよかったんだが………。
『では、外に転移するぞ?』
「?アマツに転移スキルなんて無いだろ?」
『この場所には魔力を流し込んで発動する魔法陣が一定間隔で設置されておるからな。それを使うのだ。3歩前に進むのだ。』
言われた通りに進むとアマツが光る。すると足元に魔法陣が描かれ、俺は光に飲まれた。