第2話 怖いもの見たさ
「くそっ、しまったな………」
転移させられたのは薄暗い森だった。自由な生活の前に契約が結ばれた事を通知しといた方が良かったかもしれない。
………だってこの森は恐らく魔物が出てくる森だろう、《真眼》でも[グラン皇国近辺の森(魔物危険度F)]って出てるくらいだし、魔物が出てこないのなら危険度なんて表示されないはずだ。つまり、国として利用価値の無い俺は早々に消しておくつもりなのだろう。
だが、もちろんこんな場所で死ぬ気は毛頭無い。ひとまず森から出ることを目標に動こう。ポケットを探ると電波なんて飛んでないので使えない携帯とチェーン付きの長財布があったので、長財布を取り出してチェーンを武器として使えるようにしておく。
森のような同じ景色の場所を歩く場合、人間は無意識で同じ場所を回る。と聞いたことがあるので木に印を付けながら進むことした。
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しばらく進むと戦闘の音が聞こえた。《怖いもの見たさ》という人間に備え付けられたスキルが発動し(そんなスキルがあるのかは知らないが)、俺は戦場に向かった。
危なくなったらすぐに逃げよう。そう思っていた。だが、その考えは甘かった。
俺が戦場が見える位置の茂みに到着すると戦闘音が聞こえなくなった。つまりどちらかが全滅したということだ。恐る恐る覗くと目が合った。
「「………!?!?」」
緑の肌に大きな目、俺の腰ほどしかない身長、そして《真眼》によって表示される個体名、その名はゴブリン。
つまり戦っていたのが人かはわからないが、そっちはゴブリンに負けたのだろう。
俺がその考えに至った時、ゴブリンが奇声を上げる。
すると周囲のゴブリンがこちらを見てきた。つまり、奇声は仲間に俺がいることを知らせる合図だったのだ。
急いで立ち上がりゴブリンと反対方向に逃げる。進む当ては無いが、ゴブリンと戦えるとも思えない。
後ろをゴブリンが追ってくる。その手には石の斧や木製の弓が握られており、俺に向かって矢と拾った石をむやみやたらに飛ばしてくる。
飛んで来た石と矢を避けたいのだが、そこまでの運動神経は無い。だが、異世界に来た特典なのか、不思議と息は切れていないのでなんとかゴブリンに距離を詰められることなく逃げられている。
だが、そんな状況は長くは続かなかった。それは俺にはこの森の地形なんてわからないからだ。そもそも戦闘系のスキルが無いのでゴブリンの追撃に反撃することも出来ないし、逃げるしか無いのに逃げる為のルートがわからないので、ついにゴブリンに囲まれてしまった。
どうにかして逃げ切らなければならない。なぜなら、こんな場所で死にたくはないから。俺は英雄になりたい訳じゃないし、平凡に生きていければそれでいい。そう思っている。………まぁ、ニートになれればそれでいいとも思っているがな………。
持ち物は長財布と金貨10枚、そして携帯電話だ。長財布にはチェーンが付いているのでそれで自衛をしつつ、この場を切り抜けるしかない。
暴力は無い学校生活、仕事は肉体労働だがそこまで重いものを扱うことも無かったので筋肉はつかなかった。なので戦闘も出来る気はしない。
だが戦うしかない。俺は覚悟を決めてチェーンの長さを肘くらいの長さになるように調整して持ち、石斧で攻撃してきたゴブリンに向かって横凪ぎにチェーンを叩きつける。ゴブリンが横に飛んで行き、木にぶつかるとHPが無くなりきれいな石を残してゴブリンが消え去った。
「………は?」
そう思うほどに威力にそしてあまりの威力にゴブリン達が攻めて来なくなる。もちろんその隙を逃さずゴブリンによる包囲を強引に突破した。
が、ゴブリンを突破した後、ゴブリン達がまたしても俺の後ろを追ってくる。
そうしてしばらく逃げているとボロボロの遺跡が目に写り、俺は遺跡に逃げ込んだ。そこはパルテノン神殿のような形の遺跡で、隠れるような場所は無い。《真眼》で見てみると[選定の神殿]と表示され、モンスターはいないようだ。だが、今はゴブリンに追われていて、ここにゴブリンが侵入出来ない保証はないので、身を隠す必要がある。
だが、隠れる場所を探している内にゴブリンに追いつかれてしまう。
追いつかれたことに焦り遺跡を適当に触ってしまった。その結果、転移させられた時と同じように一瞬で景色が変わった。俺がこの世界に召喚された時とおなじようにゴブリンも一緒に転移したかもしれないと、すぐに周囲を確認するが、俺以外には誰もおらず、俺はようやく一息付くことが出来たのだった。