第九十話 練習試合②
「それでは、みなさん。こちらです」
おれたちは、案内されてついていくと、そこは広い将棋部の部室にいきついた。さすがは、女子高。うちの部室の雑多な感じの部屋ではなく、きちんと整頓されている落ち着いた部屋だった。アロマの機械などもおいてある。なんて部屋だ。一生、ここに住んでいたい。
「うわー、綺麗な部屋ですね」
葵ちゃんが感心して、はしゃいでいる。
「昨日、みんなでがんばって掃除しただけですよ。いつもはもっとひどい環境です」
奏多さんは、そう言って笑った。
「昨日はみんな涙目でしたもんね」
部員にそう突っ込まれて、奏多さんは苦笑いに変わっていた。見た目のイメージとは違って、かなり親しみやすい性格なのかもしれない。こんな落ち着いたひとが、盤上では鬼のように強くなるのだからわからないものだ。
「さあ、こちらがわたしたちの団体戦のメンバーです」
そう言ってメンバー表を渡された。
「では、こちらがわたしたちのそれです」
部長もすかさず紙を奏多さんに手渡す、って、あれ。
「部長、おれたちメンバー表聞いてませんよ」
「いえーい、サプライズっ!」
なにやっちゃってるの~。練習試合で味方にサプライズしてどうするの。もっと、落ち着かせて将棋させてよ。おれは、おそるおそるメンバー表を見つめた。とても嫌な予感がした。
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先鋒 文人 vs 北さん
次鋒 かな恵 vs 古泉さん
中堅 葵ちゃん vs 日向さん
副将 部長 vs 西内さん
大将 俺 vs 奏多さん
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「って、おれが大将じゃないですかあああああああああああ」
おれは、この合宿で何回目かわからない絶叫をあげた。
「そうだよ」
「だって、大将は、いつも部長が……」
「作戦、作戦~♪」
おれの抗議は聞き入れられない。まさか、おれ捨て駒にされたのか? いくらなんでも練習試合で、そこまでするのか…… 部長、おそろしい子っ。
「はい、じゃあ、みんな整列してあいさつよー。葵ちゃんはじめての団体戦で緊張するだろうけど、平常心よ。大丈夫、相手は有段者だけど、あなたならいけるわ。間違いなし」
部長は、いつものようにおれを煙に巻いていってしまう。
どうなっちゃうんだ、この試合。
「桂太!」
文人が声をかけてくれる。やっぱり親友だ。おれの心を慰めてくれるのだろう。
「あきらめろ」
絶対、後ろに(笑)がついていた。あいつ、おれにとどめを刺しに来たな。なんてやつだ。
「やってやる」
おれは逆に覚悟を固めるのだった。




