第八十八話 合宿⑤
そう、この悲劇の発生は、5時間前にさかのぼる。
おれは、部長に踏まれながら、回想シーンに入った。苦しい、早くどいてくれ…… そう思いながら……
※
「桂太くん、開けて、開けて~」
ノックの音が聞こえた。それと同時に大きな声も。それは、もはやノックなどではなく、暴動寸前の緊迫感を感じた。
「兄さん~、はや~く~」
かな恵も一緒に部屋の前で暴れているようだ。最悪のコンビだ。泣けるぜ。
「桂太、早く行ってきてよ」
文人がつまらなさそうに言う。
「どうして、おれだけ」
「だって、桂太にご指名じゃない」
「そりゃ、そうだけどさ……」
「いいから、いいから。今日はもう帰ってこないで」
おれの親友が冷たすぎる件について。
「じゃあ、おれがドアを開けてくるから」
そう言って、文人は無慈悲にドアを開いた。
「ナイス、文人くん。かな恵ちゃん、確保よ」
「さー、いえっさー」
おれは、瞬く間に美少女二人に拘束された。ああ、文字にするとすごく天国に見える。文字面だけだけどなっ。
「文人、たすけっ」
おれは、親友に助けを求めた。
「桂太」
親友はにっこりと笑う。よかった、口ではなんとも言うけれど、やっぱり文人は親友だ。俺の目に狂いはなかったんだ。
「オタッシャデー!」
「なんで、片言っ」
おれは、親友の言葉に全力で突っ込みながら、女子部屋に連行されていった。これも字面だけみれば(以下略)
※
「さあ、ケイタくん。はっきりしてもらおうじゃないの」
おれは、部長とかな恵に取り囲まれて尋問される。
「葵ちゃん、どうしてこうなったの?」
おれは唯一、まともそうな葵ちゃんに助けを求める。
「ええと、かな恵ちゃんが持ってきたお洒落な洋酒チョコを食べたら、ふたりとも酔っぱらってしまったみたいで……」
たしか、父さんが土産にチョコを買ってきたよな。あれか?! たしか、ウィスキー入りのチョコレートだったはずだ…… ウィスキー、旅の疲れ、いつもと違う環境…… これなんて、ラブコメ?
「じゃあ、わたしも眠くなってきたので、寝ちゃいますね。桂太先輩、ご武運を!」
あっ、逃げた。おれの唯一のライフライン、葵ちゃんが……
「さあ、どっちを選ぶんですかぁ、にいあん」
かな恵もろれつが回っていないようだ。これはやばい。なにをされるかわかったもんじゃない。
「わたしよね、桂太くん」
「私ですよね、兄さん?」
これって夢じゃないよな。現実だよな。なんで、こんな神話世界みたいな状況が……
「ええと、葵ちゃん、かな?」
おれは時間に追い込まれて、最悪の悪手を放った。
「にいさんのばかあああああああああああああああああ」
「にぶ〇ん野郎うううううううううううううううううう」
もちろん、枕でボコボコにされましたよ、ええ、はい。




