第八十七話 合宿④
「よし、これで調整完了。明日に備えて、ゆっくり寝てね」
わたしは、部長らしくそう言って、合宿初日の幕を閉じた。みんないい感じに仕上がっている。明日の練習試合の相手は全国レベルの強豪だが、もしかするともしかするかもしれない。特に、桂太くんと葵ちゃんの成長は著しい。おそろしいスピードで、ふたりはお互いを高め合っている。
まさに、理想のシナジー効果。最高のカップルだ。
まあ、自分で言っておいて、自分でダメージを受けてしまうんだけどね……
そして、わたしたちは、自分たちの部屋に戻った。
※
そして、繰り広げられるのは……
「はい、葵ちゃん、あ~ん」
「あ~ん、すごく、おいしいです」
「でしょう。かな恵ちゃんもとってもうまいわよ」
「ありがとうございます」
「これ、とっても濃くて美味しいですね」
「でしょう。わたしの自信作なんだ」
チョコレート中心のお菓子パーティーだった。
「あ、そうだ。わたしもとっておきのチョコを持って来たんでした」
かな恵ちゃんがバックを漁っている。
「うわ~、おしゃれな箱だね」
葵ちゃんが黄色い歓声をあげる。どうやら海外の高級チョコレートみたいだ。
「父の海外出張のお土産なんです。みんなで食べましょう」
「わーい」
「いただきまーす」
わたしたちは、一斉にチョコレートを頬張った。
甘くまろやかな大人な味のチョコレートだった。
わたしたちの意識はここで途切れている……
※
「あれ、いつの間にか寝ちゃったんだ」
わたしは目をさます。少しだけ頭が痛かった。
「ちょっと、お水でも飲もう」
冷蔵庫に入れておいた水を取りだそうとベッドからでて歩くと何かを踏んでしまった。
「ぐへ」
変な声まで聞こえた。まさか、変質者? たしかに、わたしたちの顔面偏差値は高い方だろうと思うけど…… いつの間にか、わたしたちって狙われていたのっ?
恐怖で、足が震える。でも、わたしがしっかりしないといけない。じゃないと、かわいい後輩たちは守れないのだから。
「やあああああああああああああああああああああああ」
わたしは絶叫とともに枕を不審者に振り下ろした。
「ぎゃああああああああああああああああああああああ」
不審者の絶叫が広がる。よし、勝った。
「ぶ、ぶちょう。痛いですって。せめて、足を、足をどけてください。お、重い」
どこかで聞いた声だった。わたしは、不審者?の顔をよく見る。
その、顔は……
「け、桂太くん?」
わたしの好きな、大好きなひとだった。
どうして、ここに……




