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第八十二話 陽動

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 おれたちは、いつも通り挨拶をして、将棋をはじめた。

 おれが先手となった。


 今回は飛車先の歩をついて、居飛車を明言する。まあ、おれが振り飛車を採用することなんてほとんどないんだけどね。かな恵は、おれの駒の動きに対応して陣形を作っていく。今回は完全におれに合わせるような形になるようだ。いつもの奇襲戦法ではなく、正統的な陣形を作っていく。おれは、それを疑いながら、陣形を整えていった。


 かな恵は、その様子を見て、自分の飛車を一歩横に動かした。なるほど、袖飛車か……


挿絵(By みてみん)


 袖飛車とは、飛車を一歩動かして、あいての防御陣地を押しつぶす作戦のことだ。本来の場所は、敵陣の防御駒が密集しているため、その密集地帯を避ける作戦である。いつもかな恵が採用している「嬉野流」や「パックマン」、「極限早繰り銀」と比較すれば、おとなしい戦法だけれど、破壊力は抜群。攻撃特化のかな恵らしい戦法だ。


 おれは、それを見て定跡を捨てた。

 金と銀を密集させて、陣形をゴリゴリと上へ上へと押し上げていく。おれが得意な厚みを持った戦い方だ。「厚み」とは具体的に言えば、有利な位置を確保することである。今では、主流とは言えなくなってきたが、盤の中央付近を陣取ることで相手の動きを制限して、自然と勝利を呼び寄せる作戦である。かな恵は、攻撃の方法を制限されて、手詰まり状態となる。


 かな恵は少しだけ考えて、再び飛車に手をつけた。

 まさか、ここでか。


 彼女は、飛車を振った。向かい飛車に……


挿絵(By みてみん)


「陽動振り飛車か……」

 おれは、天を仰いでつぶやいた。まさか、こんな変化球を用意していたなんてな…… さすがは我が義妹。完全な変態将棋だ。


―――――――――――――――――――

用語解説

袖飛車……

『王将』という映画で有名な坂田三吉が開発したとされる戦法。ほとんど定跡が整備されていないが、多くの名人やタイトルホルダーにも愛される戦法。火力は抜群。


向かい飛車……

振り飛車戦法の一種。飛車を相手の飛車と向かい合わせるように動かすため、こう呼ばれる。振り飛車にしては、縦からの攻撃になりやすく、居飛車党で指しやすい戦法。ただし、力戦寄りになりやすく、将棋のセンスがもろにでやすい戦法。


陽動振り飛車……

居飛車に見せかけて、振り飛車にする戦法。

相手に振り飛車に弱い陣形を強要するため、そこで優位に立とうとする戦法。

しかし、自陣の防御陣が弱体化しやすく、指しこなすにはかなりの腕が必要。

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