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第七十九話 タイトル戦

「おっ、対局画面ひらいたぞ」

 将棋の盤と対局者の姿。そして、動画コメントが映し出される。

 にく生、名物のコメント欄は相変わらず華やかだ。かなり、元気いっぱいである。


 今日のタイトル戦は、名人と並ぶ最高位タイトル戦王龍戦だった。

 木島正王龍に、名人が挑む頂上対決。盛り上がらないわけがない。おれも、気が気じゃなくて、学校ではスマホの棋譜速報を開きっぱなしにしていた。先生にばれそうになって焦ったけど……


 王龍戦は、二日制のタイトル戦である。持ち時間は各自八時間の長丁場だ。

 今日は二日目。もうすぐ最終盤の激闘である。


 木島王龍・名人はともにオールラウンダー。すべての戦法を指しこなすとも言われていて毎回違った形になる。


 特に、木島王龍は、「力戦派」として知られており、その腕力は一級品だ。

 今回は、珍しく四間飛車を採用した。


 名人は、それに対して急戦を選択。

「まるで、昭和の将棋だ」

 と解説の山井九段は驚いていた。現代将棋やコンピュータ将棋から離れた古風な戦い方。みている俺たちは最高に楽しいのだ。


 木島王龍は、美濃囲いの左の金をカウンター側に加担させるという力戦を明示。


挿絵(By みてみん)


 同局面は、数十年前のプロのタイトル戦までさかのぼるという忘れられた戦いかただ。


 名人はじわじわと攻撃陣を厚くすることでそれに対応した。


 両者手詰まり感が出てきたとき、王龍は飛車を王のもとに移動させた。

「えっ」

「ここでか」

 おれたちは、驚きの声をあげた。


 かな恵はかなり驚いていたが、おれには覚えがあった。

「大山流雲隠れ飛車」


挿絵(By みてみん)


 おれは部長との研究会で、調べたことがある戦法だった。

 急戦に相手を誘導させて、相手の陣形の弱点である王の頭を上から押しつぶす。定跡化されていない力勝負。


「船囲いを上から押しつぶすんですね。これは楽しそうな戦い方」

 力戦大好きかな恵さんは、目がらんらんに輝いていた。どうやら、この戦法を新しいレパートリーに加えるらしい。たしかに、かな恵の棋風的に考えて、この戦法はマッチングしそうなイメージだ。


「この将棋は、火力がかなり高いけど、その分自分で囲いを放棄してしまうから、防御力が弱体化してしまうんだよな~」


 動画の解説者は、

「この戦法って、たしか昭和の中期にみたことがあるやつですね。大名人が得意としていた戦法です」

 そう言ってちょっとだけ困っていた。


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人物紹介

井藤名人……

55歳。10代より40年間以上、第一線で活躍する怪物。

現在2冠。タイトル120期。

オールラウンダーで、すべての戦法に精通する。

あだ名は「大賢者」。最強の終盤力を持つ。


木島正……

37歳。名人を継ぐ男とも称される。

タイトル33期。現在3冠。

名人とともに2強時代を担っている。

オーソドックスな将棋を好む名人とは異なり、定跡をはずれた戦法を好む。

腕力と粘り強さでタイトルを量産。

別名「底なし沼」


用語解説

王龍戦……

架空のタイトル戦。賞金額は最高で、タイトルの格も最高位。


大山流雲隠れ飛車……

昭和の大名人「大山康晴」が得意とした戦いかたで、四間飛車を敵の王の眼前に振る戦法。

縦からの攻撃に弱い陣形となっている相手に大きなプレッシャーを与える。

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