第七十七話 相談
今日は部活も早めに終わったので、おれはひとりで帰宅する。今週の週末はみんなで集まって、合宿の準備のための買い出しなので、早めに解散となった。みんなで買い出しって、なんだかワクワクする。将棋オタクとして諦めていた青春っぽいことが、最近実現してきている。
そんなことを考えていたおれを、かな恵が追い抜いて行った。かなり急いで帰っている。なにかあるのだろうか? 見たいテレビ番組とか?
でも、今日は平日の夕方。放送される番組といったら、子供向けアニメと夕方のワイドショーくらい。そんなに急ぐ必要はないと思うのだけれど……
「かな恵? どうしてそんなに急いでるんだ?」
おれがそう聞くと、かな恵は時間が惜しいとばかりに即答した。
「みたいネット番組があるんです。好きなバンドの特番で。じゃあ、兄さん、また、あとで」
そう言って走って行ってしまった。そうか、ネット番組か。いやー、同じ将棋オタクでも、趣向が全然違うな。変に感心してしまう。さすがは、一年生のスクールカースト頂点と言われているひとは違うもんだ。
さて、おれもコンビニでも寄って帰るかな。おれは家に向かって歩く。
※
家に着くとおれは適当に買ってきたアイスを食べながら、部屋でくつろぎはじめた。今日は、ふたりとも帰りが遅いので、夕食を作るのも遅めでいいそうだ。そういえば、今日は将棋のタイトル戦がネット中継されているんだったな。ゆっくり見ようかと、パソコンを立ち上げる。
パソコンを立ち上げたら、ノックの音が聞こえた。
ドアを開く。そこには、ちょっと疲れた感じのかな恵がいた。さっきのウキウキ感がなくなって悲壮感が漂っている。
「兄さん、いま、大丈夫ですか?」
「お、おう」
数分間で、変わり果てた姿をみてちょっと緊張してしまった。どう接すればいいんだ。
「実は、相談があるんです」
あ、これはラノベでみたことがあるやつだ。たしか、あのラノベは妹が「人生相談」と称して、イチャコラする話だった。まさか、おれもついに二次元の世界の仲間入りか。
うをおおおおおおおおおおおおおおおお。心の中で変なテンションとなり、おれはさらに動揺を強めた。
「な、なに?」
よし、これはラノベ界の定跡では、悩みを聞く。おれが、がんばって解決。さらに深くなる兄妹愛と相場が決まっている。もう、定跡化している世界だ。どんとこい、かな恵の悩み。
「言いだしにくいことなんですか……」
ここまではすべて研究手順だ。
「にく生の将棋放送を見せてくれませんか? 兄さん、プレミアム会員でしたよね……」
そして、桂太は知るのだ。
ここは現実世界だったと……
そして、妹は、自分と同じ将棋オタクだったという現実に……




