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第六十八話 ランチ

「無事に買えてよかったね」

 本を大事そうに抱いている葵ちゃんを見ておれは安堵した。お目当ての本も買えたようだ。アマチュアからプロ編入試験を受けて、合格した人が書いた棋書だった。中飛車対居飛車、中飛車対振り飛車、中飛車対中飛車の3つがすべて網羅されている本だったので、おれたちも読んでみたところ、とてもわかりやすいのでそれとなった。


「でも、将棋の本って高いんですね。1000円は超えますもんね~」

 おれたちは、うんうんとうなづく。

 そう、将棋の本は基本的に高い。そして、需要も一定数あるため、なかなか中古も流通しないのだ。おれたちも、小遣いをためたり、部費で共有の棋書を買うことで凌いでいた。


「まあ、今日はお父さんたちに、将棋の本を買いに行くって言ったらお小遣いくれたんですよねー おじいちゃんとお父さん、わたしと将棋するのがすごく嬉しいみたいで……」

 それは、うらやましい。たしかに、将棋ファンに女性は増えているものの、まだ男社会的な雰囲気は残っている。そんな男社会で、自分の愛娘と同じ趣味をもてたふたりがどうなるかは簡単にわかるはずだ…… それもこんな素直でかわいい娘さんが…… もう溺愛するしかないじゃないか。それはまるで、おれが葵ちゃんにしているように……


「そうだ。先輩たちに、本を選んでもらうと言ったら、お父さんから「お礼にご飯でも誘って食べてきなさい」と言われたんでした。よかったら、ふたりともランチ行きませんか?」

 なんと、いいお父さんなんだ…… 葵ちゃんはお父さん似なのかもしれないな。


「じゃあ、わたし、行きたいお店があるんだけど、いい、かな?」

 かな恵がおそるおそるそう言った。珍しいな。こういうときのかな恵ってあんまり前に出るイメージないんだけど…… 


「わたしは、かな恵ちゃんのいきたいお店にいきたい。いいですよね? 桂太先輩?」

「ああ、いいよ」

「よかった。じつは、一度行ってみたかったんですよね。友達に教えてもらったお店なの」

 そう、安易に答えてしまったのがいけなかったのだ。おれは、この選択肢を一日中後悔することになる。だって、かな恵が選んだその場所は……


 昨日、おれが部長とデートしたカフェだったのだから……


 はめられた。

 すべてはかな恵の計画通りなのか……


「歩が足りるんだよ」

 そんな将棋界の名言がなぜだか頭をループしていた。


 たぶん、ここでは「将棋ボクシング」よりも激しい戦いになる。おれは、そう直感しながらカフェへと入った。

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