第六十七話 買い物
「じゃあ、棋書を買いに本屋に行こう」
おれは、かな恵の目線が怖いので、話題をそらして、急ぎ足になった。「ああ、今日は本当に天気がいいな」なんて誤魔化しながら、おれはスタスタと歩いていく。
「あっ、待ってくださいよ」
葵ちゃんがそう言って、小動物のようについてくる。よかった、これで誤魔化せただろう。そう思って、かな恵を見ると、彼女は冷たい笑顔で笑っていた。おれの義妹こわすぎっ。
「ほんとうに、しょうがないな~」
そう言うかな恵からは冷気のような覇気が漂っていた。どうなっちゃうんだろう? この買い出し……
※
「さあ、本を買いましょう!」
葵ちゃんが元気よく言った。ここは、周辺で一番大きなデパートの本屋に来ていた。ここは、将棋本の新刊が充実しているので、おれもよく利用しているのだ。
「そうだね。葵ちゃんは、やっぱり中飛車の本にするのかな? それとも詰将棋? 次の一手?」
かな恵は、少しだけ気を落ち着かせたのか、普通の口調になっていた。
「やっぱり、中飛車の本が欲しいです。桂太先輩が選んでくれた戦法なので…… それと相振り飛車って言うのも勉強したいので、その2冊を……」
ちょっと、もじもじしていた。ああ、かわいい……
「これだから、フラグ建築士は……」
かな恵がボソッとそう口にしたのを、おれは聞き逃さなかった。やめて、このギスギスオフライン。主におれとかな恵だけだけどさ……
「桂太先輩? 将棋の本を買う時の注意点とかってありますか?」
「そうだな~ 入門書は、図が多くて矢印とかが入ってるわかりやすいものを買っておけばいいと思うけど…… 専門的なやつはいろいろと選び方があるからな~」
『将棋入門』とか『○○プロの簡単将棋講座』とか入門書はわかりやすさ重視なんだけど……
意外と中級者から有段者向けの本って選ぶのが難しいんだよな……
「基本は、なるべく新しいものを選んだ方がいいと思うよ」
かな恵がおれに助け舟をだしてくれる。たしかに、古い本だとすでに結論が覆っている説明が載っていたりするし……
「そうだね。ただ、新しいものでも、プロの最新研究とかはとても難しいから避けた方がいいと思うな。実際に読んでみて、わかりやすいと思った本を買えばいいと思うよ」
「ふたりともありがとう! じゃあ、ちょっと見てみるね~」
そう言って、中飛車関係の書籍をパラパラと立ち読みをはじめる。おれも、矢倉関係の定跡本を漁ることにした。かな恵はノータイムで奇襲本を読んでいる……




