第六十六話 朝
眠れない夜が終わり、朝がきた。
結局、ほとんど眠れなかったおれは、詰将棋マラソンをすることで暇をつぶしていた。とりあえず、今日が祝日でよかった。まだ、明日への対応を考える時間があった。
そろそろ、朝食の準備でもしようかな。そう思ったおれにスマホの着信音が襲いかかる。
まさか、部長?
おれは、おそるおそるスマホを見つめる。
メッセージの送り主は、葵ちゃんだった……
※
おはようございます。突然連絡してしまってごめんなさい。今日って時間ありますか?
※
デジャブを見ているような気分になる。まさか、またデートか……
おれのモテ期がきたのかもしれない。
とりあえず、すぐに返信する。
「大丈夫だよ。なにかあった?」
すぐに返答があった。
「将棋の本を買いたいので、一緒に選んでもらえませんか? その後、かな恵ちゃんと3人で遊びましょう」
あっ、よかった。今回は普通の遊びの誘いだ。
ちょっとは気分転換になるだろうし、行きたい。おれは即座にOKと連絡した。
おれは、そのまま、朝食を作りに台所へと向かった。そして、熱いコーヒーを淹れよう。
おれとかな恵は駅で、葵ちゃんを待っている。
かな恵は、いつもよりもカジュアルな服装になっていた。昨日の部長との対局の後から、少しだけ落ち込んだ雰囲気になっていたので、声をかけにくかった。
「兄さん?」
そんなおれを気にしたのか向こうから話しかけてくる。
「なに?」
おれは、おそるおそる返答した。
「昨日は、楽しかったですか?」
昨日の闘志あふれる声とは違って、かなり弱弱しいものだった。
「うん、楽しかったよ」
おれは正直に答える。
「そう、ですか」
彼女の表情は少しだけゆがんでいた。
「……」
「……」
気まずい。昨日からとても気まずい。
その後からはまた、無言の時間が続く。
とても気まずい……
「ふたりともおはようございます。お待たせしちゃいましたか?」
そこに天からの救い。葵ちゃんが来てくれた。
「ううん、いまきたところ」
「よかったー」
クラスメイトのふたりで話がどんどん進む。今日は、おれはうんうんと聞いているだけでよさそうだ。
「桂太先輩も今日はよろしくお願いしまーす」
そう言って葵ちゃんはおれにとびかかってくる。いつものスキンシップだ。本当に可愛い後輩とのじゃれつきなんだけど……
いつものスキンシップなんだけど……
それをみるかな恵の目が……
いつもの目じゃなかった……
冷たい、冷たい、視線がおれを貫いた。
あれ、今日がおれの命日かもしれない。




