第六十五話 二人の夜
おれは、部長を家に送った後に、自分の部屋に閉じこもった。さっきの熱が冷めない。気を紛らわそうと日課の詰将棋マラソンのために、問題集を開いたが、ページが全然進まなかった。
さきほどの部長の唇の感触を思い出してしまう。完全な不意打ちだったのに、あの時の感触は忘れられない。なんだか、とても柔らかかったし、いいにおいもした。あれは本当に部長だったんだ。夢じゃない。
公園で散歩をしていたときを思い出す。
池での会話。
部長の顔。
水に反射した満月。
そして、別れ際の部長との会話。キスした記憶……。
それらが永遠にフラッシュバックし、頭の中でループをしていた。
「うわああああああああああああああああああああああ」
何度目か分からない声にならない悲鳴をあげる俺。
今日は眠れそうにない。おれは、徹夜を覚悟した。
「部長ってやっぱり……」
これ以上はあえて口に出さない。いつもはふざけて、おれをからかっているだけかもしれないと思っていた。でも、今日みたいなことになってしまったらそちらの考えのほうが具体的に信ぴょう性があるものとなっている。
「どうして、あんな美少女がおれのことを……」
それはとてもありがたいことだけど……
そして、嬉しいことだけど……
まだ、実感がなかった。
※
「やってしまったあああああああ」
わたしは、何度目かわからない声にならない悲鳴をあげる。
わたしは、家に帰ってベッドにもぐりこんだ。全部計画通りなんだけど、やっぱりきまずい。明日から桂太くんとどんな顔をして会えばいいのか、皆目見当もつかない。
やばい。明日、学校で平常心を保てる自信がない。
「どうしようううううううう」
そう言ってベッドをゴロゴロする。
いくらなんでも、あんな露骨なことをしたら、鈍感な彼でも気がつくに決まっている。もしかして、迷惑じゃなかったかな。痴女みたいなことして、嫌われてしまったらどうしよう。いくらなんでも、強引すぎた。順序というものを吹っ飛ばしてしまった。
このままじゃ、このままじゃ……
「桂太くんに、嫌われちゃう」
ネガティブな感情がこころのなかを支配する。
それを取り除こうと楽しいことを思い出す。
今日の桂太くんとランチ。横に座った指導対局。公園での散歩。勇気を出したあの誘い。桂太くんの作ってくれたハンバーグ。かな恵ちゃんとの将棋。そして……
彼とのキス。
「うわああああああああああああああああああ」
何度目のループかわからないけど、わたしは叫んだ。
夜はどんどん更けていく。




