第六十一話 死闘!部長vs義妹
ご飯を食べた後に、わたしはかな恵ちゃんの部屋に向かった。
そこは、かなりファンシーなお部屋だった。かわいいぬいぐるみと、おしゃれな小物雑貨。アロマな香り。この部屋の主が将棋好きな痕跡はほとんどなかった。
「かな恵ちゃん? 将棋の本とかおいてないの?」
そう、盤はあるのだけど、棋書は一切おいていない部屋にわたしは驚く。
「ああ、それは電子書籍で持っているんです」
なるほど、だからこんな女子力の高そうな部屋になるのか。私の部屋には、『山井九段実戦集』とか『四間飛車の狙い81』とかいかつい本が並んで、女子力を下げているというのに…… こんな女子女子した部屋が同じ部屋にあったら、間違いなく桂太くんに悪影響がでてしまう。なにか、手を打たなくては……
「じゃあ、部長やりましょうか? ルールはどうしますか?」
「遅くなっちゃうから、10分切れ負けでどう?」
わたしは、そう提案する。切れ負けとは、時間が無くなったら負けになるルールだ。今回の場合は、10分の持ち時間を使い果たした場合は、どんなに将棋が勝勢でも無条件で負けとなる。短時間で将棋をする場合によく使われるルールだ。
「わかりました。では、お願いします」
そう言って、彼女はベッドの下から盤を取り出した。やっぱり、立派なものを使っている。彼女なら、当たり前なんだけど……
わたしたちは、急いで駒を並べた。はやる気持ちが抑えられない。
「ああ、ふたりとも将棋やってるんだ? おれも見学するね」
下の片づけが終わった桂太くんが、様子を見に来た。これで余計に負けられない。わたしの闘志に火がついた。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
わたしたちは大きな声であいさつする。ここで負けられない。お互いに気合が入った挨拶となった。
※
わたしが後手だ。
いつものように、お互いに角の通り道を開ける。
わたしは毎度のことながら、四間飛車を目指す。かな恵ちゃんは、どこかで奇襲を採用してくるだろう。そのとき、どう対応するか?
そんなことを考えていた。
しかし……
彼女の構想力は、わたしを上回るものだった。
3手目、角交換…… 彼女が目指したのは、禁忌に近い手法だ。
先手一手損角換わり。
将棋の入門書では、初心者がやってはいけない指し方として必ず紹介される一手。
先手にもかかわらず、一手損してしまう指し方だ。これを採用するということは、手損よりも自分が得意な戦法にもちこんでやるという考えだろう。
そうすると、採用される戦法として考えられるのは……
筋違い角。
アンチ振り飛車戦法だ。




