第六話 デート?
父さん、僕は今、美少女とデートに来ています。ああ、人生最良の日。
デート場所はもちろん、おしゃれなカフェ……
ではなかった。
「ああ、ニンジンが安いですね」
「そだねー」
「今日はカレーにしましょうか」
「いいねー」
これは単なる夕食の買い出しだ。
※
「私とデートしてください」
「はい、喜んで」
こうおれは即決した。
「ありがとうございます。まだ、私この近く慣れてないからいっぱい案内してください」
「はい、よろこんでー」
デート、デート、美人とデート。
将棋オタクに生まれて、苦節16年。ついに我が世の春がきたー。
そんなふうに思っていた時期がぼくにもありました。
「じゃあ、どこいこっか」
「お昼のお礼に、夕飯を作りたいので、スーパーに連れていってください」
桂太、それデートやない。単なる買い出しや。脳内理性によって、おれはすぐさま幻想をぶち殺された。
※
「桂太さん、カレー好きですか?」
「うん、好き、好き」
悲しみに暮れるおれをよそに義妹は、ルンルンにカレーの材料をかごに入れていく。
最初のぎこちなさとは、違い、かな恵さんもかなり表情もおだやかになった。少しずつ信頼関係が作られているんだと思うと安心する。
「1280円です」
「はい」
レジを通して、おれたちは肉とたまねぎとじゃがいも、にんじんを袋に包んだ。
「よし、じゃあ帰ろうか」
おれは、そう言って袋をもちあげた。
「えっ、あっ、はい」
少しだけ戸惑った顔になるかな恵さん。なにか、あったのだろうか。
「いやーまさか、父さんが再婚して、きゅうに妹ができるなんて思わなかったよ」
「わたしもです。まさか、お母さんが再婚して、急にお兄さんができるなんて思いもしなかった」
そう言いあって、おれたちは笑いあう。
「こんなことを言うと変かもしれないけれど、実は正直うれしいんだ」
「再婚が、ですか?」
「それもだけど、家族が増えたこと。こうして、父さん以外の誰かと食材の買い出しにいくなんて数日前はかんがえもしなかったしさ」
「私も嬉しいです。ひとりっこで、さびしい思いをしてきたから、兄弟や姉妹がいたらな~なんて考えたことがあるんですよ。ひとつ夢が叶っちゃいました。それに……」
「それに?」
「さっきのスーパーで、桂太さんが荷物を持ってくれたこととても嬉しかったんですよ」
「そんなことが?」
「小さいころから、ひとりでスーパーに行ってました。だから、重くても自分でもたなくちゃいけなくて……。でも、今日は桂太さんが持ってくれた。なんでもないことなのかもしれないんですが、それがどうしようもなく嬉しいんです。ああ、本当にお兄さんができたんだな~みたいな」
そう言って恥ずかしくなったのか、彼女は顔をうつむける。その姿がとてもかわいらしかった。妹をもつ兄ってこういう気持ちなんだな。そんなふうに思った。
おれは妹の頭で手をポンポンと動かした。
「あらためて、これからよろしくな。かな恵さん」
「はい、こちらこそお願いします。義兄さん?」
そして、またふたりで笑いあった。
「でも、桂太さんって、意外とプレイボーイなんですね」
「えっ、どこが?」
「クスっ、そういうところです♡」