第五十四話 でーと?
最近は将棋部の活動が忙しい。先週は大会で、今週からは新体制によるごたごた。さらに、詰将棋マラソンと棋譜並べまで始まってしまった。たしかに、充実した毎日だが、ふと思うのだ。彼女ができた同級生などを見ていると余計に。
「ああ、デートでもしたいな」って。
そんなことを考えていたのがいけなかったんだ。このあとの悲劇を呼びだしてしまったのだから……。
※
寝る前に、将棋の勉強をしていたおれに携帯の音が鳴り響いた。部長だった。
「あ、桂太くん。夜遅くにごめんね」
「いえいえ、いつも付き合ってくれているのは自分ですし、大丈夫ですよ」
「そう、よかった。ねえ、桂太くん? 今週の日曜日、暇?」
「ええと、ネット将棋するくらいしか予定がないんですけど」
「じゃ、じゃあ、さ、わたしと遊ばない? で、デートしない?」
うん? デート? それって神話世界の話だよな?
「だめ、かな?」
「だめじゃないです。むしろ、ウェルカムです」
ノータイム指しだ。これは、はっとする手だが……(意味深)
「じゃあ、駅前に11時待ち合わせでいいかな?」
「はい」
「楽しみにしてるね」
「こちらこそ」
思わず無意識で答えてしまった。
これが、大名人がいうところの、思考の時速300キロの世界……。おれはここに神の存在をみた。
「日曜、楽しみだな~」
ちょっと、すきま風を感じたが、気にせずに寝てしまった。
それが悲劇の幕開けだった。
※
そして、当日の日曜日。
緊張したので、20分も早めに到着したんだけど、すでに部長は待っていた。
「おはようございます。部長。早いですね」
「うん、緊張しちゃってね。はやくついちゃった」
なんだか、いつもの部長じゃない。部長と、休日会うのはそういえばはじめてだった。見慣れない私服。いつもはボーイッシュなイメージの部長だが、かわいいピンクのスカートとカットソー。ちょっと女性らしい雰囲気に、ドキドキしてしまう。
「じゃあ、いきましょうか」
「うん」
そう言って、うなづく部長は、顔を真っ赤にしていた。
実は、今回のデートは行き先は「秘密」と言われていて、ちょっとドキドキしていた。どこに連れて行かれるんだろう? おっかなビックリ状態。
最初の目的は、おしゃれなカフェだった。
丸太でできたウッドハウスのようなおしゃれな場所。
「ここ、同級生が行ってて、美味しかったらしいから、一度来てみたかったのよね~」
「部長、趣味が意外と女の子っぽいですよね」
「なによ。わたしの人気知らないの?」
「知ってますけど……」
「まあ、いいわ。さて、注文、注文」
部長は、少し舞い上がっていた。
部長はマグロとアボカドの漬け丼を、おれはしょうが焼きプレートを注文した。
「やっぱり、美味しいわ~」
「本当ですね」
「ねえ、一口くれない?」
「いいですけど……」
「やったーありがとう。わたしのも食べていいよ」
「あ、ありがとうございます」
これって、間接キスになるんじゃ……。
そんな疑念をおれはマグロとアボカドと一緒に飲み込んだ。それは、とても和風な味がした。




