かな恵アフター(グランドフィナーレ)
―5年後―
俺は高校を卒業し、大学まで卒業した。
将棋が強い会社にスカウトされて、この春、ついに、俺は社会人になっていた。
今でも、皆とは将棋でつながっている。
さすがに、会う機会は減ったけど、仲間たちとたまにやるネット将棋は最高だ。
そして、今では、この大会が俺たちの同窓会のような場所になっている。
<将棋アマチュア名人戦>
住んでいる県の予選を勝ち進んだ俺たちは、自然とここで出会うことになっていた。
大会の後に、みんなとやる打ち上げが、俺たちの同窓会……
「桂太君、決勝進出おめでとう!」
「ありがとうございます、香先輩! 今回は残念でしたね、ベスト8ですか」
「相変わらず、山田くんは強かったわ。でも、桂太君は、あの将棋廃人と高柳先生を叩き潰して、3年連続の決勝進出ね。さすがだわ」
「そういえば、文人は? 今年は仕事のせいで、予選に参加できなかったから、応援に来てくれているんですよね?」
「今、葵ちゃんと、お茶を買いに行ってもらっているの。噂をすれば……」
「おーい、桂太! 決勝進出おめでとう。これ、お祝いのお茶!」
「ペットボトルかよ!」
「そう言うなって! ほら、冷たいぞ!」
「ありがとう。決勝で飲ませてもらうわ」
「美月も悔しがっていたぞ、予選で桂太と同じ組とかついてないって」
「年々、組み合わせがきつくなっている気がする」
そう言いながら、俺たちは高校時代に戻ったように笑い合う。
文人も、相田さんとの交際は順調のようだ。
香先輩は、親の会社の後継ぎ。
文人も、なんとか仕事をしているらしい。今夜は愚痴り合いになるかもな。
「桂太せんぱーい! お久しぶりです!!」
「うお、葵ちゃん!! というか、この前会ったばかりじゃん」
葵ちゃんは、大学4年生。来年は、大学院に進学するらしい。
彼女は、家によく遊びに来ているから、会うのは1週間ぶりくらいなんだけどな。
「それよりも、決勝戦の相手、決まったようですよ? 山田さんが、今、投了しましたから」
「そっか、やっぱりな……」
「私も来年は負けませんよ、決勝で仇を討ってくださいね!」
「頑張るよ、じゃあ、行って来ます」
俺はそう言って、決勝の舞台に向かった。
※
少し早いが、俺は席について、気持ちを整えていた。
3連覇をかけた頂き。
重圧と緊張で手が震えた。
「随分、早いですね?」
そして、彼女はやってきた。
「ああ、早く会いたかったからな」
「そんなおべっかを使っても、負けませんよ?」
「そりゃあ、そうだろうな。でも、お手柔らかにお願いします……」
そして、俺たちは笑いあった。
緊張感はどこかに消えていく。
俺が先手だ。
「いきますよ、桂太さん?」
かな恵は、いつものようにすさまじい初手を見せる。
「かな恵は、パックマンか……懐かしいな」
「はい、桂太さんと、私が初めて対局した時の戦法ですよ?」
ここまで、言われたら、逃げるわけにはいかないよな。
俺は、差し出された歩を勢いよく取った。
「そうこなくちゃ!」
俺は、集中力を上げて、いつもの思考の世界に没入していく。
きっと、彼女も同じだろう。
彼女の左手薬指には銀色のリングが輝いている……(完)
これにて完結になります。
長い間、読んでいただきありがとうございました。
皆様に応援していただけたからこそ、完結させることでがきました。
たまに、番外編を更新する予定なので、そちらもお楽しみいただければ幸いです。
約2年間、幸せな時間でした!
本当にありがとうございます。




