文人アフター⑤
2回戦。
部員のみんなは危なげなく勝ち進み準決勝に進んだ。
さすがに部長はブランクのせいで相田さんに負けてしまったが、ひたすら粘るいい将棋だった。
ベスト4は、桂太・かな恵ちゃん・相田さん……
そして、2回戦の最後の対局である俺か葵ちゃんに絞られる。
全国大会終了後、さらに終盤力に磨きがかかっている。中飛車の経験値も上がり、まさに超高校級の存在になりつつある。
そんな天才に、俺はどうやって挑むのか。
結論は出ていた。
中飛車対策のワクチンを使う。
それしかない。
対局は、俺が先手で、葵ちゃんが後手だ。
いつものように、居飛車に構え、葵ちゃんは中飛車に振る。
さあ、ここまではいつもの形だ。
お互いの盤面に準備ができた瞬間、俺は角を跳躍させた。
「丸山ワクチン……」
葵ちゃんは小声でつぶやく。
対葵ちゃん対策に磨きに磨いた俺の"切り札"だ。
――――――
用語解説
丸山ワクチン……
対中飛車に対して、先手の居飛車から角交換してしまう作戦。
持久戦模様になりやすく、お互いにしっかりとした囲いを作り、盤全体で戦闘が起きやすい。
角換わりの使い手である丸山九段が開発した戦法。




