文人アフター➃
そして、文化祭の当日。
俺たちの部室の前に、トーナメント表が張り出される。
「お~強豪も結構来てくれたんだな! さすがは、部長!!」
「全国優勝すると、人脈広がるよな」
上から、山田さんや一ノ瀬さん、立川さんなど県の強豪が遊びに来てくれたみたいだ。
米山先輩を含む部員5名と招待選手11名のトーナメント。
桂太が第1シードで、かな恵ちゃんが第2シード。第3シードが山田さんで……
そうか、教育大付属の人も参加してくれたのか。
第4シードの名前を見たとき、俺は一瞬納得したものの……
「えっ!?」
そこには、俺が一番よく知っている名前があった。
毎週土曜日に研究会をしている盟友の名前が……
「第4シード・相田美月」
嘘だろ!?
「桂太、謀ったな!!!」
「なんだよ、人聞きが悪い。サプライズだよ、サプライズ! 超名門校の教育大付属の現・主将が参加してくれるって盛り上がるだろう?」
「なんで、それを俺に言わないんだよ!」
「だって、言ったら緊張で眠れなくなっちゃうだろう、文人! 最高のコンディションで、当日を迎えてほしくてさ」
「なっ……」
「いいか、文人! 気持ちは、ちゃんと伝えないと伝わらない。だけど、盤上では言葉を超越する何かがある。だから、カッコイイ姿を見せろよ。時間があるときは、相田さんを案内してきてくれよ。俺は、山田さんたちを案内するからさ。あとは、言わなくてもわかるだろう?」
「恩に着るぞ、桂太! でも、首を洗って待ってろよ。決勝まで行って、お前の首をかききってやる!!」
俺は悲喜こもごもに、感情をぶつけた。
「そのいきだ! ちゃんと上がって来いよ」
「やってやるよ!!」
好きな人に、カッコ悪いところは見せたくなかった。
2回戦で葵ちゃん、準決勝でかな恵ちゃんという絶望的な組み合わせだが、全部倒す。
※
「相田さん、お待たせしました!」
「あっ、丸内君! 迎えに来てくれてありがとう。はじめてくる学校だから、緊張しちゃった」
俺は校門前に今回の特別ゲストである相田さんを迎えに来た。
会うのは2カ月ぶり。この前よりも髪は少し長くなっていた。
「今日は、来ていただきありがとうございます」
「こちらこそ、招待していただきありがとうございます。C県はレベルが高いから、皆さんと対局できるのが楽しみ。みんなお元気?」
「はい、もちろんです。相田さんは、2回戦からなので、あと1時間くらいで対局です」
「優勝目指してがんばらないとね!」
「放送室で、対局の大盤解説しているんですけど、よかったらのぞいていきますか?」
「それは楽しそうね!」
ということで、旧校舎の3階に向かう。
今の解説役は、桂太と米山先輩だった。
葵ちゃんと招待選手の松井さんが対局していた。
「やはり、葵ちゃんは中飛車でしたね。中飛車は中央から盤面を制圧していくパワフルな戦型です」
「対して、松井さんは中央からの猛攻を銀の動きでけん制する超速と呼ばれる戦い方を採用しました、桂太くん。どっちが有利だと思う?」
「松井さんがうまく抑え込んでいると思いますが、葵ちゃんの読みの力があればこれくらいは簡単にひっくり返せると思いますね」
なかなかそれっぽいことをやっている。
「香先輩、かわいい」
「対局している葵ちゃんもかわいいな~」
こんなミーハーな客も多いが、外部から来たであろう学生たちは盤面に集中している。
「おっと、おやつタイムになりました。今回の提供は3年C組の出店から提供をいただいた「ベビーカステラ」ですね」
かな恵ちゃんが対局者ふたりにおやつを差し入れる。
「このような形で、プロの対局でもおやつタイムがあります。プロは、バナナばかり食べる人や大量のカロリーメイトを持ち込む人がいたりします」
「将棋飯ということで、食事とおやつはファンの注目の的なんですよ~」
将棋がわからなくてもご飯は誰でもわかるからな。
「ホントにネット中継みたいね」
「桂太が力を入れて、いろんなところから機材集めていたから……」
「すごい行動力ね。こんな放送されちゃうと、頑張らないとね。文人君にリベンジしたかったんだけど、決勝まで行かないとだしね」
「おおっと、葵ちゃんが一気に決めに来ましたね!」
「えっ、ここから……」
「見えているんでしょう、高校生最強の終盤力の持ち主ですから……」
葵ちゃんは、圧倒的な終盤力で21手詰を解いていった。
「おい、さっきからあの子、ほとんどノータイムで次々指しているぞ!」
「なんだよ、何手先まで読んでいるんだよ」
「えっ、こんな先まで読めるの?」
初心者の人には、すさまじいインパクトだよな。
そして、不安が大きくなる。
あの怪物と次に戦うのは自分なんだけど……




