第五十一話 詰将棋マラソン②
「じゃあ、開始」
おれがそう言ってストップウォッチを作動して、詰将棋マラソンははじまった。
おれたちは、ふたりっきりで別室に立てこもった。みんなの邪魔をしないように、別の部屋で練習だ。
ページを開く。持ち駒は金と銀。これは簡単だ。おれが口を開こうとしたした瞬間……
「わかりました。▲3二角成△1一玉▲2二金打です」
一問目は葵ちゃんが瞬殺した。早すぎるだろう、この初心者は……。アマチュア三段のおれとほぼ互角の回答スピードだ。
おれが次の問題を開く。
みた瞬間におれが回答を口にした。
「▲1七銀打△2九玉▲1三角成」
「すごい、さすが桂太先輩」
後輩はそう言っておれを持ち上げてくれた。いや、キミの方がすごいんだけどね。おれ、三段なのに、キミは初心者だから。
※
「やったー、100問達成!」
「おつかれさま。一気に解くと疲れるね。ちょっと休憩しようか」
「じゃあ、わたしがお茶を淹れますね。少し待っていてください」
本当に気が利く後輩。ああ、癒される。
「ずいぶん、仲がよろしいことで」
ちょっとムッとした様子のかな恵が、様子を見に来たようだ。
「あ、ああ。やっぱり、葵ちゃんは素直でかわいいからな」
「へー」
なんかすごく睨まれているんですが……。ちょっと怖い。
「あっ、かな恵ちゃんも来てたんだ。お茶飲む?」
「ありがとう、いただきます」
葵ちゃんがきたとたん、かな恵はネコをかぶりだす。
「はい、先輩。ちょっと濃いめの緑茶です」
「ありがとう。おれの好みおぼえてくれたんだ」
「もちろんですよ」
「はい、かな恵ちゃんも飲んでね。甘いお菓子もあるから」
「ありがとう」
「本当に、葵ちゃんは気が利くな~」
おれがそんな風に彼女を褒めた瞬間、上履きに激痛がはしった。
「あっ、ごめんなさい。間違えて足踏んじゃいました」
絶対にわざとだ。そう思いつつ、おれは両手に花のおやつを楽しんだ。
「あっ、そうだ。わたしふたりに質問があるんだけど……」
チョコレートを食べていた葵ちゃんは、思い出したようにそう言った。
「家で、お父さんたちと将棋を指していたら、棒銀の対策されちゃって……。銀が前に進まなくなっちゃったですよ。そういうときってどうすればいいんですかね?」
そう言って、思い出せる範囲で盤面を再現してもらう。彼女のお父さんたちは有段者クラスの知識を持つのだろう。端歩を動かして、銀の動きを封鎖していたり、逆に相手の銀が前に出て進路を封鎖したり……。
「あー」
「そっか」
おれたちふたりはそう反応した。彼女がすでにそこまでの領域に足を踏み入れているのに正直、びっくりした。
「やっぱり、初心者あるあるなんですか?」
「うん、まあそうだね。じゃあ、休憩後に、その対策を教えるよ」
「ありがとうございます」




