香IF 最終回(後編)
私たちは都庁の展望台へと来ている。
北東には、スカイツリーが見えて、南東にはオフィス街と遠くに東京タワーが見える素敵なデートスポット……
不思議だな、あきらめようと思ったら、こんなところに連れてきてくれる。彼は私を慰めようとしているだけなのに、変な期待が私の胸を高鳴らせる。
もう日が暮れて、綺麗な夜景が私たちを包んでいた。
「綺麗だね、夜景」
「やっぱりすごいですね」
「ありがとうね、私を慰めるために連れてきてくれたんでしょう? お礼に今日は夕食くらい奢るからね」
「それも、あるんですけど……それだけじゃないというか――」
「なによ、歯切れの悪い……」
「少しだけ緊張していて」
「そうよね、たしかにこんなリア充の巣窟みたいなところ、私たち将棋好きには似合わないもんね」
「いや、先輩はめっちゃかわいいから、似合ってますよ。似合わないのは俺というか……」
「ふぁ!?」
いきなり爆弾を投下された。変な声をあげてしまい、恥ずかしくなる。
「いや、言いたいことはそういうことじゃなくてですね、その!」
「逃げないから、ゆっくりでいいわよ」
私は取り乱している桂太君を笑う。
「実はですね、ここは父さんがかな恵のお母さんにプロポーズした場所らしくて!」
「ふぇ!!!」
落ち着きなさい私。桂太君がいきなりフラグを立てるのはよくあることじゃない。いつものことよ。だから、期待しちゃダメ。
「それにあやかりたくて、ここに来ました」
「えっ、それって……待って、待ってよ、桂太君。落ち着いて話を――」
「ダメです、待ったは禁止です」
「本気?」
「本気です。ずっと、あなたに俺は憧れていました。会えなくなって、やっと気が付いたんです。俺はあなたのことが、本当に好きだって……」
「桂太君……」
「先輩が卒業してからずっと、ふたりでやった研究会のことばかり思い出していました。もう、俺の中からあなたは離れない」
「私でいいの? かな恵ちゃんや葵ちゃんじゃなくて、本当に私で、いいの?」
「俺は、香先輩がいいんです。香先輩しかいないんです。だから、付き合ってください!」
彼は力強く断言した。彼の手に対して、どうするかなんて決まっている。もう頭の中の検討は打ち切られている。
私はこの日をずっとずっと待っていた。
だから、私の次の一手はひとつしかない。
私は彼の顔に近づいて、唇を合わせる。すべての刻が凍ってしまったかのような感覚に陥る。彼の唇は柔らかくて熱い。
「幸せにしてね、桂太君?」
彼は頷いて、私の唇を奪う。
それは、永遠に続くセカンド・キスになった。
これで香IF完結です!
1週間ほどお休みしてから、文人endからのかな恵アフターを書きたいと思います!
よろしくお願いします。




