香IF 最終回(前編)
「終わったね」
「お疲れ様でした! 香先輩……」
「ありがとう……ちょっと燃え尽き気味かも。さすがに連休は夢の国以外、ほとんど将棋漬けだったもんね。付き合ってくれてありがとう」
私たちは燃え尽きながら、帰路についていた。ビルは夕焼けに焦げている。1日の終わり。
「ごめんね、せっかく協力してくれたのに、勝ち切れなかったよ」
私は涙をこらえて、彼に謝った。
先ほどの準々決勝。私は、筑波さんの鬼手にみごとに打ち取られてしまった。
ただ捨てされた角が最後の最後に守備で効いてくる大好手。どうやら、攻めずに受ける方が正着だったみたい。
彼のブラフに完全にやられてしまった。
「後悔していますか?」
「どうかな? 悔しいのは、悔しいけど、満足感もあるわね。最近で一番満足した棋譜だったから……」
「ですよね。あんな棋譜見せつけられちゃったら、嫉妬しますよ。それも相手は、あのアマチュア最強クラスの有名人ですからね」
まったく、桂太君は純粋すぎる。私はずっとあなたの棋譜に嫉妬していたのわからないのかな?
これだから、鈍感ラノベ主人公は――
「本当にかっこよかったです。俺がずっと憧れていた米山香という将棋指しが帰ってきてくれた。あんな棋譜を生で見ることができた。それだけで、俺は幸せ者です」
この人は本当に私のことを将棋としか結び付けてくれないんだろうな。家で徹底的に将棋した時もなにもしてくれなかった。
それがとても悔しい。せめて、彼が私を好きになってくれたらよかったのに……
私はかなわない恋をしたのかもしれない。いつかは終わりにしなければいけないそれにただすがっている自分が情けない。
もしかしたらいい機会かもしれない。すべてを終わらせるには……
「ねぇ、け……」
「先輩、夜景を見に行きませんか?」
私の決断は彼の声によって阻まれる。
「へ……?」
「だから、デートしましょう? せっかくいい将棋が見れたんだから、ここで帰るのもったいないですよ……」
ちょっと長くなったので分けちゃいました(笑)




