香IF⑰
私たちは囲い合う。お互いに固く陣形を作り、持久戦模様だ。これでお互いに、終盤勝負になる。
「なるほどな。お互いに、固くしてから持久戦でねじり勝ちを狙おうとしているのか」
筑波さんはやっと言葉を発した。私の右ミレニアムを見てもほとんど驚きはない。
すでに研究済みということだろう。固さは私の方が上だが、相手の陣形は広く硬さとのバランスもいい。このバランスの良さは、とても魅力的だろうな。
でも、私の戦法はまだ生まれたばかりだ。だから、みんなわからないことがたくさんある。その未知の泥沼で私たちは殺し合う。
それが今の将棋界を象徴している。
「なるほどな、腕力勝負で俺に立ち向かうつもりか!」
「身の程知らずなのはわかっていますよ。でも、定跡どおりに穴熊と勝負しても勝てる気がしないんです」
「なるほどな、美濃囲いは手段であって目的ではないということか! おもしろい。なら正面から叩き切ってやる」
私はついに、巨大な風車に挑むドン・キホーテの気持ちになる。この巨大な怪物を私は倒すことができるのだろうか。
ここであきらめるわけにはいかない。だって、大事な時期に連休をつぶしてまで私の研究に寄り添ってくれた後輩のためにもここで情けない姿を見せることはできない。
だって、私は彼の先輩だから。
先輩でもたまには、彼に甘える。でも、甘えすぎてはいけない。かっこいい姿だって見せなくちゃいけない。それが、先輩としての重責だから……
私はただでは負けない!




