香IF⑬
「早すぎる!!」
土浦副部長は驚愕の声をあげていた。でしょうね、でもこれは成立する!! 私たちの連休中の研究はそう結論づけられている。だから、攻めを繋げる。もう退かない!
私は強烈な端攻めで、穴熊を揺さぶった。穴熊は端からの攻撃に弱い。だから攻撃をそこに集中させるのが、耀龍四間飛車の狙い。美濃囲いを捨てて金無双にして、片矢倉のような形に変化したのはそれが目的だ!!
よし!! 狙いの香車を手に入れることができた。これならさらに攻撃が繋がるわ! 私は自分の髪を抑えて、集中する。視線の中に、駒以外の余計な情報を入れたくない。
盤上没我の境地。1秒が何時間にもなるような錯覚。すべての手が見えるような感覚。
私は一気に、二人零和有限確定完全情報ゲームの限界に達する。
手に入れた香車を盤上に叩きこむ。穴熊を真っ二つにするために――
この一手は縦から敵の穴熊を分断する。
「こうするしかないな」
先輩は致命傷を避けるために、飛車を犠牲にした。
攻めは完全につながった。
私は飛車を獲得した後は、持っている歩を端に全力で叩きこむ。土浦副部長は苦しそうに、なんとか対処療法で受け続けなくてはいけない。
端への猛攻が30手以上続く。私は金銀を穴熊の上部に張りつけて、王様の上部脱出を妨害させる。なんとか、脱出路を確保しようとしていた副部長はついに諦めて、私の玉を捕まえようと動いた。
最後のお願い。
私がミスをすれば、頓死する状況を作り出すのが、彼の狙いだろう。
でも、それすらも私は読めている。相手の駒では、絶対に私の王は捕まらない。だから、これはブラフ。
香車をもう一度、打ちこむ。これで必死だ。もう副部長は絶対に逃げられない。
あとは、攻撃をいなすだけ。
私は最後の攻撃に備えた。




