第五十話 詰将棋マラソン
「詰将棋マラソン?」
「そう詰将棋マラソン!」
「どんなことやればいいんですか?」
「そりゃあ、簡単よ。詰将棋をひたすら解く。別名、詰将棋400問ノック」
詰将棋、400問、ノック?かなり不吉な単語が並ぶ。
「とりあえず、部室にある詰将棋を解けるだけ、解きなさい。長い手数のは不要だから、3~7手詰ぐらいの短めな詰将棋を解いて、解いて解きまくりなさい。それこそ、溶けるくらいに。目標は1日400問」
「でも、そんなに解いたら、問題集はすぐなくなりますよね?」
「その時は、解いた問題集をもう一度解きなおす。反射的に答えがでるくらいが目標ね」
「なるほど」
「プロのタイトルホルダークラスは、600問の3~5手詰を、30分未満で解くらしいわ。理想は、そこまでできるようにしたほうがいいわね」
「600問を、30分未満!?」
「1問3秒くらいね」
プロってそんな怪物なのかよ。おれは、絶句する。
「これをすることで、読みの精度と深さを圧縮させることができるわ。格段に読むスピードがあがるはずよ」
「ちなみに、どうして長手数はしないんですか?」
「理想はしたほうがいいと思うわ。あくまで効率の観点からの提案よ」
「わかりました。がんばります」
しかし、的確なアドバイスだ。論理的で、わかりやすい。
「そして、それを楽しくやるために、葵ちゃんと一緒にゲーム感覚でやりなさい。ふたりなら、平均1問1分くらいでいけるでしょう。最初は1日100問くらいからはじめてみて。慣れてきたら問題数を増やしていって、最終的に1日400問くらい解けるようにがんばりなさい」
「わかりました」
「では、詰将棋のほうはこれで終わり。次に、棋譜並べのほうだけど……」
「はい」
「桂太くんの将棋の問題点としては、相手に合わせすぎちゃうことよ。相手に合わせすぎて、自分のよさを隠しちゃうことが多いわ。もっと自分を強く出しなさい」
「はい」
あれ、これは将棋の話だよな。私生活ではなく……。
「だから、得意な戦術をもっと磨きなさい。そのために、わたしの秘蔵のコレクションを貸してあげる」
「はい」と渡された2冊の分厚い本におれは驚く。『穴熊名局コレクション』と『矢倉名局コレクション』だった。どちらも3000円を超える高価な本だ。プロの名局がたくさん詰まった貴重な書籍。
「いいんですか?」
「もちろん。夏の大会までに、3回は並べなさい」
「ありがとうございます。部長、一生ついていきます」
「おおげさね~。でも、桂太くんがそこまで言うなら体で払ってもらおうかしら?」
「あっ、それは事務所NGです」
「芸能人?!」




